（えええ？）
　私は茫然とする。
「お嬢さん、大丈夫？」
　一緒にエレベーターに乗っていた40代くらいのサラリーマン風(ふう)の男性。彼はエレベーターを降りて私に手を伸べる。
「全く……大人げないよなあ。あれ？　あのオバサンもういないのか。あ、立てる？」
「は、はい」
　私は彼に支えられ、「ありがとうございます」と膝を押さえながら立ち上がる。何て紳士的な人なのだろう。差し出された彼の左手の薬指に輝く指輪が、控えめながら一瞬きらりと光るのが見えた。
ああ、この人絶対奥さんも子どもも大事にする人だ。と直感的に思った。こういう人に優しくされると、恋愛経験のない私でさえドキッとしてしまう。
「膝、痛むの？」
「え、あ、はい。少し……でも、大丈夫です」
慣れない状況に私はテンパってしどろもどろになってしまった。
（私、こういう紳士的な人がタイプなのかも）
　良からぬ妄想とともに、エレベーターは諦めて階段で行こうか、それとも次を待とうか、と、迷いながらエレベーターに視線を向ける。