やりにくい。調子狂うなあ。
いくら昔の友達だからって、完全に油断してた。
「まあ、つまり。その……あたしよりも先に逝っちゃうなんて、全く思わなかったから。いつも当たり前にそばにいて、あたしのこと見てくれていたのに。あたしは涼ちゃんの些細な変化にも、気づいてあげられなかったんだと思うと……」
あたしは、涼ちゃんが描いてくれたあたしの似顔絵のキャンバスを手に取った。
「これ、彼が描いたの?」
「うん、美大生でさ。あたし、この繊細な色使いと筆のタッチがすごく好きで。普段はシャイで寡黙なんだけど、絵のことになると人が変わったみたいに饒舌になるの」

さっきまであたしと最後の会話をしてたとは思えないほど、今は涼ちゃんのことを懐かしく感じた。“今”という時間はほんの一瞬で過去になってしまうんだな、としみじみ思っていたら、エディがあたしを確かめるように言った。

「後悔してるの? 彼の変化に気付けなかったこと」
当たり前じゃん。後悔しかないよ。何度後を追いそうになったことか。
「あたしのせいで、あたしが鈍感だったせいで……涼ちゃん、あたしの前では絶対弱音吐いたりしなかったから……。あたしが涼ちゃんに甘えすぎてたせいで、涼ちゃんは……辛いのにあたしに言えなくて……だから――」
気がつけば、あたしは泣いていた。
頬を滴り落ちる涙滴が、キャンバスの中で微笑むあたしの上を転がるように滑り落ちていく。

「梨歩」
突然、エディの腕に包まれた。
「え、ちょっ……!」
「かっこいい彼だね」
不意打ちとはいえ、こんな場面若葉に見られたら……ますますややこしくなるじゃない。
「ねえ、エディ。ダメだよ、離して」
「ああ、ごめん」
やっと解放された。
「昔の梨歩のこと思い出してさ。つい」
子どもの頃のあたし?
「え、まさかだけど……子どもの頃、今みたいに、その……ギュッて、したの?」
「あれ? 覚えてない?」
覚えてない! 覚えてないよ!
「全く……覚えてない」
「まあ、そりゃそうだよね」
「だって、あたし小さかったし」
「僕も同じくらいの歳だったけどね」
「う……何よ。あたしの記憶力がバグってるって言いたいの?」
「まさか。寧ろ正常だよ」
「は? どういうこと?」
エディは笑顔で言った。
「だって、今のが初だから」
「!?」
か、からかわれた?
「あ、あたしをからかって楽しい?」
「うん、すごく」
「やなやつ」
「何とでも。ていうか……」
エディの表情が一瞬曇った。

「僕の大事な若葉ちゃんを泣かせた罪は重いよ」
「ひっ!」
ヤバい。怒ってる……?
怒らせたらヤバいキャラだった?
ど、どうしよう。
「そ、それはごめんってば」
「今から梨歩に罰を与えるね」
「ば、ばつ?」
罰って、何だろう?