――梨歩に出逢えて……良かっ……た……
「涼ちゃん! 涼ちゃん!」


 行かないで。
 もっと、そばにいて。
涼ちゃん。
涼ちゃん。
 
 声にならない声で、あたしは涼ちゃんの名前を叫んだ。
 

「涼……ちゃん……」


 完全に見えなくなった涼ちゃんの姿。
 今度こそ、本当にもう……二度と会えないんだ。


「あたしも……涼ちゃんに出逢えて、幸せだったよ」

 せめて、この言葉を聞いてから行ってほしかったな。
 あたしはベッドの上の桜の花びらを手に取った。

 開け放った窓から風が流れ込む。

 蝶が舞うようにそれに乗った花びらは、あっという間に空の青に溶けて消えていった。

一瞬すぎて、未だ気持ちが追いつかない。
もうどんなに願っても、涼ちゃんのいた時間は戻ってこない。

どんなに寂しくても、
苦しくても、
悲しくても、
辛くても、


前に進むしかないんだ。


 カタッと、涼ちゃんがくれたあたしの似顔絵のキャンバスが音を立てて倒れた。
「え……?」

 さっきまではなかったはずの文字が浮かんでいる。

 ――Especially for you――


 最後まで、不器用だったな。

 そんな不器用な優しさが、あたしはたまらなく好きだった。

「ありがとう、涼ちゃん。大好き」

 ずっと忘れないよ。

涼ちゃんがくれた最後のエール。

あたしは、今を生きていく。

19歳のあたし。

人生は、まだまだこれからだ。

泣き言言ってる場合じゃないね。