でも、それはあり得ない。

 もう二度と、聞こえないはずの声。

「涼……ちゃん?」

 もう二度と、会えないはずの彼。

――ごめん。

「涼ちゃん!」

 亡くなったはずの、涼ちゃん。

――ちゃんと、言えなくて。
 ほんと、そう。
 口下手もいいところだよ。
 回りくどいところも、はっきりしないところも。

「どうして、言ってくれなかったの?」

――ごめん。

 わかってる。
 あたしに心配かけたくないから。

――梨歩。

 涼ちゃんの躰が、透けている。
「涼ちゃん、あたし……」

――梨歩のせいじゃないから。
「え?」

――俺がこうなったのは……梨歩のせいじゃない。
「……」

――言ったら、梨歩は自分のせいだって思うだろうから、姉貴に頼んで――

「だからって、そんなことしなくても……」
――ごめん。

 涼ちゃん、さっきから謝ってばっかり。
 謝るのは、あたしの方なのに。

「ごめんね、あたし……涼ちゃんに甘え過ぎてた。いつも黙ってあたしのやることなすこと見守ってくれていたのに」

――それは、俺がそういう梨歩の姿を見ているのが好きだったから。

 涼ちゃん。そういうのは、生きている時に言ってほしかったよ。
 寡黙でシャイなのは知ってたけど。改めて言葉で聞くと、あたし、涼ちゃんのこと全然わかってなかったんだなって思った。

「あ、そうだ。プレゼント、ありがとう」
――ああ。無事に手元に届いたみたいでよかったよ。

「まったく……お見舞いの一言もないから、死んでるんじゃないかって思ってたら……」

――ごめん。本当に死んでしまって。
「冗談でも笑えないよ、それ」
――ごめん。さすがにシャレにもならないよな。

 さっきよりも、涼ちゃんの躰が透けて見えた。
 いつになく饒舌なのは、もう時間がないってことなのかな。