「梨歩」
 お母さんが布団越しにあたしに言った。
「……若葉ちゃんに、あなたの危篤を伝えたのは私。でも、まさかエディ君と一緒だとは思わなかったわ」
「え……?」
 何それ。お母さん、知らなかったの?
「びっくりしたわよ。15年くらいぶりかしら。梨歩が退院して以来、ずっと彼と会っていなかったでしょう? お互いどこに住んでいるのかすら知らないまま離れ離れになって。まさか、こんなに近くにいたなんて」
「……でも、何で若葉とエディが――」
 今一番引っかかっているのは、二人の関係だ。大体想像はつくけど……。
「私もさっき聞いたの。出逢ってまだ日は浅いけど、二人は今恋人同士だって。もう少し落ち着いたら、梨歩にちゃんと報告に行く予定だったんだって」
「……そう、なんだ」
 やっぱり、二人は付き合ってるんだ。それは紛れもない事実。
 だとしても、やっぱりあたしは……。
「もう、訳がわからないよ……」
 思い描いていたシチュエーションとは程遠く、皮肉にも親友の恋人として現れた彼にお礼どころか、八つ当たりしてしまうなんて。
 あたし、最低だ。
 もう、若葉もきっと来てくれない。
 あたしは今日、あたしの一番の親友も同時に失ってしまったんだ。
 全部、自分が蒔いた種。気付いたころには、もう手遅れだけど。
「何で……どうして……」
 悔しい。
 どうして、心穏やかでいられないんだろう。
 どうして、自分のことしか考えられないんだろう。
 二人は、二人の時間よりもあたしを選んで駆けつけてくれたというのに。
 ごめんね、若葉。
 ごめんね、エディ。