ブルーヘヴンの彼方に


「ごめんなさいね、二人とも。せっかく来てくれたのに……梨歩、ちょっと疲れてるみたい。また今度来てもらってもいいかしら?」

 お母さん、やめてよ。
「もう来なくっていいってばッ!!」

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。
 あたし、今ものすごく惨めじゃん。
 あたしの知らない間に、どういうわけか二人の時間が進んでいて。

 ずるい。
 どうして、あたしばっかりこんな思いしなくちゃいけないの。

「梨歩、一度落ち着きなさい」
「出てって! 出てってよ!」

 嫌い、嫌い、嫌い。
 誰も、あたしの気も知らないで。
 何なのよ。

「わかったわ。今日は帰るね、梨歩……」
「驚かせて悪かった。それじゃ、僕も今日はこれで失礼するね。お大事に――」
「病人扱いしないでよ! 好きでこんな躰になったわけじゃないのに……」

 ああ、最低だ。
 あたし、今……若葉にもエディにも八つ当たりして。
 
 でも、抑えられない。こんなの、いつものあたしじゃ、ない。

「……ごめん。無神経だったね」
 違う。エディは悪くない。
 
「――もういい。早く……行って」

 こんな言い方しかできない自分が、嫌い。
 あたしは二人に背を向ける。
 布団越しに、ドアの閉まる音がした。