山野井(やまのい)総合病院」――この看板が見えたら、病院の敷地内にそびえ立つ大きな桜の樹が目的地を示すサインだ。ゴール目前で最後の交差点、歩行者信号のある横断歩道手前で立ち止まる。車が通り過ぎていった後の、妙に強烈な風を全身に受け、私は身震(みぶる)いする。
「さ、(さむ)っ!」
 (かじか)んだ両手をコートの(そで)にくぐらせてみたものの、吐息だけでは(だん)をとれる気配はない。(いま)だ冬の名残(なごり)がある外の空気は、思いの(ほか)冷たくて、信号待ちの時間すらもスロウモーションのように感じる。私の中で、(はや)る気持ちばかりが加速度を増していく。