ああ、ダメだ。
僕はこれから若葉ちゃんとのデートだ。過去の愚痴をわざわざ引っ張り出す必要はない。とはいうものの、久々に思い出したらまたイライラがぶり返してきた。
「いかんいかん」
いつかギャフンと言わせてやりたい。
そうだ。武蔵くんたちとダブルデートでもしてみようか。
「よし、善は急げだ」
僕はケータイで武蔵くんにダブルデートの提案のメッセージを送ることにした。
「行くとしたら、学校帰りがベストかな」

 そうこうしているうちに、若葉ちゃんとの待ち合わせ場所に到着した。
 花見公園前の路肩に車を停め、武蔵くんにメッセージを送った。

〈いいね! その作戦乗った! ていうかいつの間にか彼女できてたんだね。おめでとう。会えるの楽しみにしてる!〉
返信が早い。さすが武蔵くん。
〈ありがとう。つい最近だけどね。僕も楽しみにしてるよ!〉
僕はメッセージを打ちながら画策する。
節操もデリカシーもないあのチャラ男に一泡吹かせてやろう、なんて。僕はあまりいい性格ではないのかもしれない。僕のささやかな復讐のために彼女を利用するようなことをしてしまうと思うと、少し申し訳なく思った。
少し、ね。
「あとで若葉ちゃんにも聞いてみよう」

メッセージを送信し、前方に彼女の姿が。
 僕は車を降りて、彼女のもとへ。
「お待たせ、しました」
 風に揺れるシフォンのワンピース。ペパーミント色がよく似合っている。
偶然だろうが、この車の色とも色合いがよく似ている。
「いいよ、僕も今来たところだから」
 僕は助手席のドアを開けて彼女を座らせた。
「狭い車でごめんね」
「いえ。可愛い車ですね」
「ああ。これ、実は母さんのなんだ。買ったのにニホンノ車コワイネって言って全然乗らなくてさ。近々僕がもらう予定」
「へえ。お母さん、車運転できるんですか?」
「免許は持っているんだけど、怖がって乗らないから今は初心者の僕より危険かもしれないね。怖いっていうか、もともと面倒くさがりだから余計に」