☆
 そのマスターは、いわゆる“オネエさん”だ。パッと見、長身のスレンダーなイケメンなのだが、赤髪のツーブロックに舞台女優風の派手なメイク、膝上30センチくらいのショートパンツに網タイツ、極め付き……真っ赤なハイヒールといった類まれな、ある意味……”美しい人”だ。(とし)は多分だけどアラフォー世代、声はバリトン。
 ここまで聞いていると、想像するだけで労働意欲が減退すると思う。でも、実は意外とこのキャラクターがウケて、店は繁盛しているのだ。決して夜の怪しい店ではない。白昼堂々と営業している、正統派女子が好みそうな乙女チックなカフェだ。
 何故僕がこの店を選んだのか。その理由というのは理由であって、実は理由ではない。自分でも訳が分からない間に気付いたらここにずっといて、このままズルズルと続けてしまったというのが本音だ。