既に3枚目の半分以上を胃袋に収めた平良は、全くペースを乱す事なく残りを切り分けていく。

「まあ、年の功もあるし、話しくらいなら聞くし。それに、人に話していたら自分の考えがまとまるって事もあるし・・・ね」

 先ほどと同様の店主の言葉に、2人の女子大生が顔を見合わせる。そして一拍後、平良が見詰めていた女子大生が左右に首を振った。自らを一人の大人だと思い始めた女性は、簡単に心の内を他人に見せたりはしない。当てられるから信用するのであって、だからこそその先へと話しが続いていくのだ。

「ありがとうございます。でも、誰かの意見が聞きたいって訳でもないですし・・・あの、何か、すいません」


 その様子を見ていた凛花は、第三者の立場から思いを巡らせる。
 まあ、そうだよね。私だって、自分の悩み事を他人に話すことなんかできない。簡単に話せないからこそ、悩んでいるののだから。って・・・ん?

 この時、凛花は違和感を覚えた。

 この人・・・あれ?

 凛花の脳裏に平良が眺めていた光景が蘇る。

 もしかして、もしかするの?
 最初の二人組みの時、平良は手前の女子高生を見詰めていた。そして、今度も同じ様に手前の女子大生を。どちらも占いを求めて訪れたお客さんで、どちらも手前のお客さんが占って欲しい人だった。
 偶然?
 ・・・かも知れない。というか、その可能性のほうが高い。かなあ。高いよねえ。でも、もしかしたらって事もあるかも知れない。あって欲しい。お願い、神様!!
 毎日毎日考え続けているから、頭が変になったのかも知れない。まだ二組。たったの二組。でも、もし、平良に悩み事を抱えている方が分かっていたとしたら―――――って、やっぱりないか。毎日考え続けているから、何かに縋りたくなっているんだ。ああ、アホらしい。
 我ながら、マヌケな発想だったわ。

 ひたむきに食べる平良の正面で、肩を落としたり背筋を伸ばしたり、椅子に座ったり勢い良く立ち上がったり、と壊れたオモチャの様にコミカルな動きをみせる凛花。
 ごく当たり前に考えると、凛花が考えている様なことは有り得ない。


「じゃあ、せっかく来たんだし、肉・たま・ソバ、お願いします」
「私も同じの」
「はいよ。じゃあ、650円だけど、500円に負けとくから」

 女子大生の目の前で、ジュージューと美味しそうな音と匂いが広がっていく。

 最終的に、来店した人はお好み焼を食べていくのだが、リピーターになるかどうかは別の話しだ。当然ではあるが、固定客の増減に占いの有無は影響している。事実、少しずつではあるが、売り上げは落ちてきている。


 妄想を膨らませて一人芝居を披露していた凛花の前で、平良はついに3枚目も完食した。さすがに満足したのか、平良がコップを手にして、一気に水をのどに流し込んだ。

「大丈夫ですかあ?」

 平良がコップを置くと同時に、のれんの間から仕事帰りといった雰囲気の女性が顔を覗かせた。
 凛花はこの女性を知っている。まだ祖母が生きている時によく来店していた、岡原という名の会社員だ。祖母が他界した後も変わらず来店している事からも、えびすやの常連だと言える。

「岡原さん、いらっしゃーい」
「凛花ちゃん、久しぶりいー」

 岡原はそう言って、平良の2つ横の席に腰を下ろす。そして、「こっちこっち」と岡原に促され、後ろからついて来た女性がその横に座った。どうやら、岡原が友人を連れて来たようだ。