平良は思わず天を仰いだ。
 今になって、逃げていたことに気付く。

 自分の責任を転嫁しようとしていた。
 何が正解なのか、それは分からない。
 それでも、考え続けて、自分なりの結論は出している。でも、それを伝えることに責任を持てず、自分の結論を他人の言葉に変換しようとしていた。
 やはり、それは間違っている。
 自分の思いは、自分だけのものだ。


 平良は大きく深呼吸をすると、紗希に向き直る。そして、ポケットから1組のタロットカードを取り出すとテーブルに広げた。紗希は冷めた表情で、平良の行動を見詰めている。

 平良は広げたタロットカードの中から1枚選び、紗希の前に置く。この時のために、平良はタロットカードが意味することを少しだけ覚えていた。

「臼田先輩が推測した通りです。僕は、僕自身の答えを、お祖母さんの意見として伝えようとしていました。
 先輩の将来を決めるなんてことは僕には重過ぎるし、何より自信が持てません。だから簡単な手品を使って、お祖母さんがこのカードを選んだようにするつもりでした」

 裏切られ、捨てられた、何も持たない平良の選択は、最初から決まっている。

 紗希の目の前に置かれたカード。
 それは「THE FOOL」、いわゆる愚者のカードだ。

「THE FOOLのカードが示すこと。
 盲目的な挑戦。未知の分野であろうと、誰に反対されようと、怖がらずに行動する。挑戦する。考えるよりも先に行動する。自分は失敗しない、絶対成功する。そういった根拠のない自信を持って突き進めば、自ずと道が開ける―――――」

 平良はそう言うと、愚者のカードを持っている紗希を見詰める。こういう言葉を並べるということは、平良の出した結論が「大学など進学せず、思うままに生きれば良い」ということを意味している。

 しかし、この意見には重要な部分が抜けている。それが証拠に、紗希が続きを待っている。待たせていることは分かっているが、平良の口は動かない。

 背中は押しても、どの方向に押せば良いのか分からない。それが、ここが平良の限界だった。人生経験が乏しい平良に、普通の高校生に、生き様とか人生だとか分かるはずがなかった。


 その時だった―――

 ぼんやりとテーブルの上に広げられたタロットカードを眺めていたトメが、スローモーションのように流れる時間の中、真っ直ぐにその手を伸ばした。そして、何を思ったのか、そのカードを平良に手渡す。

 平良と紗希、2人の呼吸が一瞬止まる。
 そして次の瞬間、2人の言葉が重なる。

「トメさん?」
「お祖母ちゃん?」

 やはり、反応はない。
 ただ、目の前にあったカードを、何の意味もなく平良に渡したに過ぎないのだろうか。

 裏の状態で手渡されたカードを、平良が何気なく表にする。
 THE MAGICIAN、魔術師のカード。そのカードを目にした瞬間、平良の視界が一気に広がった。

 ああ、そういうことだったのか・・・

 チャンスは、それを掴むために準備していた人にしか握れないという。平良も、答えを求めてずっと考えていなければ、この意味に気付かなかったに違いない。

 魔術師のカードが意味すること。
 錬金術師は無から何かを生み出すわけではなく、魔術によって元素を金や宝石に変えていくのだ。だから、今の状況を変えたければ、魔術、つまり自分の中にある力を見直さなければならない。

 ああ、そうなんだ。

 平良がの答えが、平良の言葉で語られる。


「ですが―――――」

 唐突に紡がれた逆接詞。これから語られる言葉が、平良の最終的な答えなのだということに紗希は気付いた。それでも、既に平良に興味を失った紗希の目は、薄暗い闇に飲み込まれたままだ。

「それよりも先に、やらなければならないことがあります。先輩は、自分が存在している理由、自分が進むべき道が知りたい。そう言いましたね」
「そうよ。私は、自分の存在理由が知りたい。それを探しに行きたい。」

 反応を確かめた平良が軽く頷く。