「でもね、ふと思うことがあるんだ。
仕事で不条理な目に遭った時とか。そうだな、自分の能力が過小評価された時とか。あと、女のくせに!!とか言われた時とか。そんな時には、考えちゃうんだよ。
そんな時は、自分にはもっと別の生き方があったんじゃないかって、そう思ってしまう。
あの時こうしておけば、とか。あそこでコッチにしとけば、とか。そもそも、自分の生き方が間違っていたんじゃないか、とか。それこそ、世間が悪い、親が悪い、ともね。
その度に色々考えるし、全部投げ出して誰も知らない所に行ってしまおうとかって思ったりする」
岡原の自分語りに凛花が聞き入る。店主は扉まで歩いて行き、そっとのれんを片付けた。
「自分より全然勉強ができなかった中学の同級生が、何件もお店を経営する美容室のオーナーになってたり。ほとんど登校すらしてなかった子が、海外で新進気鋭って言われるようなアーティストになってたり。散々見下していた男の子が、起業して大儲けしてたり、ね。
冒険して成功した人を見ると、自分が小さく見えてきて。それと同時に、自分にも何かできるんじゃないかって、そう思えてくる。
でも・・・
そんなに簡単じゃない。
ドラマや映画じゃない。
ここは現実の世界。
できない。
うん、できないと思う人にはできない。
できると信じる。
できると信じて行動する。
諦めない。
諦めずに前に進む。
私には・・・・・できない。
口ではあれこれ言ってみても、今持っているものを捨ててしまうことは、私にはできない。
だから、私は、自分のいる場所を肯定してもらいたくて相談する。
誰かに、私は間違ってないって言って欲しくて話しをする。
でも、正確には、今は―――かな。
もしかすると、いつかは全てを打ち捨てて飛び出すかも知れない。こののまま、愚痴をこぼしながら年を取るかも知れない。だけど、もしかしたら、いつか私だって、自分の可能性を信じてジャンプするかも知れない。
こんな感じに、せーのって!!」
突然立ち上がった岡原が、その場から立ち幅跳びの要領でジャンプする。そして、着地したポーズのまま首だけ振り返り、大声で笑う。滑稽な仕草のはずなのに、凛花は見惚れてしまった。
「何が成功なのかなんて、まだ私には分からない。もしかすると、そもそも成功ってこと自体に個人差があるのもかも知れない。
でもまあ、とりあえず、今の私には踏み出す勇気がないから、ここで愚痴をこぼす」
話してくれたことの全てを理解した訳ではない。それでも、岡原が凛花のために話しをしてくれたことだけは、十分に伝わっていた。
いつか必要になる言葉達を、岡原は凛花にプレゼントしたのだ。
「じゃあ、ごちそうさまでした」
勘定を済ませた岡原が、既にのれんが掛かっていないことに気付いて苦笑する。その意味に気付いたのだろう。
「凛花ちゃん」
「はい・・・?」
「例え高校生でも、足を踏み出そうとする人は必ずいるから。もしもそんな人に出会ったら、ちゃんと話しを聞いてあげないとダメだよ」
「了解しました!!」
敬礼のポーズをする凛花に岡原は親指をグッと立て、満足そうな笑みを浮かべた。
岡原が初めて来店したのは、今からちょうど10年前。まだ高校生の時だった。当時、友達とキャーキャー騒ぎながら恋占いをしてもらっていた女子高生が、今や立派な社会人だ。
店主は岡原を見送りに出た凛花の背中を見詰めながら思う。
あと10年もすれば、あんな風に物事を考えられるようになるのだろうか?―――いや、目の前にある問題すら直視できない娘が成長した姿など、今は想像することさえできない。
再びため息を吐きながら左右に首を振る店主。戸締りをして振り返った凛花が、小首を傾げながら店主を見詰める。
「何?」
「何でもない」
仕事で不条理な目に遭った時とか。そうだな、自分の能力が過小評価された時とか。あと、女のくせに!!とか言われた時とか。そんな時には、考えちゃうんだよ。
そんな時は、自分にはもっと別の生き方があったんじゃないかって、そう思ってしまう。
あの時こうしておけば、とか。あそこでコッチにしとけば、とか。そもそも、自分の生き方が間違っていたんじゃないか、とか。それこそ、世間が悪い、親が悪い、ともね。
その度に色々考えるし、全部投げ出して誰も知らない所に行ってしまおうとかって思ったりする」
岡原の自分語りに凛花が聞き入る。店主は扉まで歩いて行き、そっとのれんを片付けた。
「自分より全然勉強ができなかった中学の同級生が、何件もお店を経営する美容室のオーナーになってたり。ほとんど登校すらしてなかった子が、海外で新進気鋭って言われるようなアーティストになってたり。散々見下していた男の子が、起業して大儲けしてたり、ね。
冒険して成功した人を見ると、自分が小さく見えてきて。それと同時に、自分にも何かできるんじゃないかって、そう思えてくる。
でも・・・
そんなに簡単じゃない。
ドラマや映画じゃない。
ここは現実の世界。
できない。
うん、できないと思う人にはできない。
できると信じる。
できると信じて行動する。
諦めない。
諦めずに前に進む。
私には・・・・・できない。
口ではあれこれ言ってみても、今持っているものを捨ててしまうことは、私にはできない。
だから、私は、自分のいる場所を肯定してもらいたくて相談する。
誰かに、私は間違ってないって言って欲しくて話しをする。
でも、正確には、今は―――かな。
もしかすると、いつかは全てを打ち捨てて飛び出すかも知れない。こののまま、愚痴をこぼしながら年を取るかも知れない。だけど、もしかしたら、いつか私だって、自分の可能性を信じてジャンプするかも知れない。
こんな感じに、せーのって!!」
突然立ち上がった岡原が、その場から立ち幅跳びの要領でジャンプする。そして、着地したポーズのまま首だけ振り返り、大声で笑う。滑稽な仕草のはずなのに、凛花は見惚れてしまった。
「何が成功なのかなんて、まだ私には分からない。もしかすると、そもそも成功ってこと自体に個人差があるのもかも知れない。
でもまあ、とりあえず、今の私には踏み出す勇気がないから、ここで愚痴をこぼす」
話してくれたことの全てを理解した訳ではない。それでも、岡原が凛花のために話しをしてくれたことだけは、十分に伝わっていた。
いつか必要になる言葉達を、岡原は凛花にプレゼントしたのだ。
「じゃあ、ごちそうさまでした」
勘定を済ませた岡原が、既にのれんが掛かっていないことに気付いて苦笑する。その意味に気付いたのだろう。
「凛花ちゃん」
「はい・・・?」
「例え高校生でも、足を踏み出そうとする人は必ずいるから。もしもそんな人に出会ったら、ちゃんと話しを聞いてあげないとダメだよ」
「了解しました!!」
敬礼のポーズをする凛花に岡原は親指をグッと立て、満足そうな笑みを浮かべた。
岡原が初めて来店したのは、今からちょうど10年前。まだ高校生の時だった。当時、友達とキャーキャー騒ぎながら恋占いをしてもらっていた女子高生が、今や立派な社会人だ。
店主は岡原を見送りに出た凛花の背中を見詰めながら思う。
あと10年もすれば、あんな風に物事を考えられるようになるのだろうか?―――いや、目の前にある問題すら直視できない娘が成長した姿など、今は想像することさえできない。
再びため息を吐きながら左右に首を振る店主。戸締りをして振り返った凛花が、小首を傾げながら店主を見詰める。
「何?」
「何でもない」