再び女子高生に視線を送る平良。それに気付いた凛花の目が、犯罪者でも見るかの様に平良を射抜く。
しかし、二度目ともなると、凛花も少しは冷静に観察ができるようになっていた。相変わらず女子高生の胸元に視線は注がれているものの、平良からは微下心が微塵も感じ取れなかった。
「ムムム・・・」
平良の行動の意味を図ろうとした凛花が、少しだけ首を傾げる。しかし、それも一瞬で、すぐにキャベツの用意など手伝いを再開した。同級生だとはいえ、平良とはつい1時間ほど前まで声を聞いた事さえなかったのだ。ほぼ初対面同然の人が考える事など分かるはずがないし、凛花は正直なところ平良に対し何の興味もなかった。
それよりも、凛花は大きな問題に直面していた。鉄板の端に座る平良が、2枚目を食べ終えても店に居座っている現状だ。
腕を組んで暫く考えた後、凛花はある可能性に気付いた。
「もしかして・・・まだ食べるつもり?」
「そうだけど?」
「普通に代金もらうけど?」
「・・・・・・うん」
少しの間が気になったが、凛花は鉄板の温度を上げて油を垂らした。
「えっと、私が作るから・・・まあ、半額で良いよ」
「うん」
表情を変えず即答した平良は、両手にヘラを持った臨戦態勢のまま鉄板を凝視する。その視線の先で、凛花がお好み焼きを作り始めた。作り方を誰かに教えてもらった訳ではない。しかし、幼い頃から毎日目の前で見ていれば、自然と覚えてしまう。門前の小僧習わぬ経を読む、的なイメージだ。
高温になった鉄板の上で油が跳ね始めると、湯切りした中華麺を炒め始めた。ジュージューという音が響き渡り、深層意識に眠る食欲を刺激する。適度に炒めた麺をひとまず横に移動させ、その場所で土台となる生地を焼き始める。
鉄製ヘラをコンパスのように回転させ、円を描く様に生地を伸ばしていく。薄い膜状に焼けたタイミングで、すぐ隣で保温状態になっていた麺をその上に乗せ、更にその上に、大量のキャベツ、ベーコンを重ねていくとお好み焼きらしい形になっていく。そして、そのすぐ隣に卵を落とし、広げた状態にしたところで生地ごと一気にひっくり返して―――――
とまあ、ここ「えびすや」のお好み焼きはこうしてでき上がっていく。
凛花が調理している横では、店主に相談していた女子高生が会釈をしながら出て行こうとしていた。笑顔を浮かべているところを見れば、店主の応対に納得したようだ。
「ごちそうさまでした。ありがとうございました」
「また来て下さい!」
今度はお好み焼きを食べるために来店してくれれば良いな。
そんな事を考えながら、凛花はもうすぐ完成するお好み焼きに視線を落とした。