「たぶん、10月に来店したのは、お互いに最後のお別れを言ったんだと思う。偶然、お互いに最後の時が10月になっただけで、それ以上の意味はなかったんだと思うよ」
平良の説明で納得したのか、それともしていないのか・・・そのまま泣きやまなかった芽衣を、母親が抱きかかえるようにして連れて帰った。
もう、納得してもらったと思うしかない。
芽衣が店を去った後、備忘録を持ったまま、凛花は表紙に書かれた文字を見詰めていた。そんな凛花の様子に、平良が気付いていないはずがない。当然、その理由も。
「立花、今の話しには続きがあるんだ」
その言葉に、下を向いていた凛花の顔が上がる。
「言ったろ? お互いに―――って」
凛花の瞳が震える。
「たぶん、お祖母さんって、心臓発作で亡くなったんじゃない?・・・あ、いや、言いたくなければ良いんだ」
凛花は言葉にはせず、頷くことで肯定する。
「その備忘録、読んだ範囲だけでも、1週間に1度くらいは―――苦しい―――って書いてあったんだ。たぶん、随分前から具合が悪かったんだと思う。だから、いつまで生きていられるのか、トメさんに訊ねたんだよ」
涙も見せず直立する凛花が、平良には泣いている子供に見える。
「でも、お祖母ちゃんは、そんなこと、一言も・・・」
「うん、言わないと思う。
心配させたくなかったんだよ。
その備忘録に、トメさんに占ってもらった日から、ずっと立花のことが書いてある。一日の最後の行に、立花のことが書いてあるんだよ。
今日はよく笑っていたとか、今日は元気がなくて心配しているとか。凛花が心優しい子に育ってくれて嬉しいとか・・・
そこにあるんだから、今、その手に持ってるんだから。
お祖母さんが、立花に贈った言葉の全てが・・・
ゆっくり読めば良い。
一緒にお店に立ったことも、全てが色褪せず、ずっと立花のものだ」
「うん・・・・・うん」
両目に涙を溜め、何度も頷く凛花。
そんな凛花を見詰めていると、なぜだか平良も泣けてくる。それを誤魔化すように、わざと悪態をつく。
「あ、でも・・・立花には読めないんだっけ? ああ、残念。ああ、そうか、読めないのかあ」
目を閉じて、何度も頷きながら目いっぱい意地悪く笑う平良。そんな平良の顔に、台拭きが投げ付けられる。
「う・る・さ・い。
アンタが読み方を教えてくれれば良いでしょ。て言うか、教えなさい!!」
凛花の態度に安堵した平良は笑う。
平良の言葉に救われた凛花は笑う。
備忘録の最後のページ。
その最後の行には、こう書かれていた。
―――どうか、
凛花が幸せになれますように―――