4席分ほど離れた場所で繰り広げられるやりとりに無反応だった平良が、チラリと二人に視線を向けた。鉄板の上で湯気を上げるお好み焼きは、既に6分の1しか残っていない。
平良の様子に気付いた凛花が、何気なく横目でその視線を辿る。視線の終着点は、平良に近い方の女子高生。その豊かな胸元だった。
「さっさとお好み焼き食べて、とっとと帰れや!!」と叫ぶ訳にもいかず、凛花は口をへの字に曲げて平良を睨み付ける。
平良には胸元を見詰めていた理由があったのだが、当然のことながら凛花にそれが分かるはずがない。
「実は―――」
そう切り出される言葉。
5分の1ほどの確率で、「せっかく来たのだから」と悩み事を吐露する人がいる。母の人柄と声音が穏やかである事も理由だろうが、結局、みんな誰かに胸の内を聞いてもらいたいのだ。
引き結んでいた口を開いたのは、平良の席に近い方に座っている女子高生だった。一言目、二言目は言葉に詰まりながら。それでも話し始めると、一気にすべてを吐き出した。
珍しく次の来店客がなかったため、結局、彼女はそれから30分以上も話し続けた。
「2年間もの片思い。この切ない想いをどうすれば良いのか?」
「告白はしたいけれど、もしもフラれたらどうすればいいのか?」と。
そんな延々と続く恋愛相談の横で、平良は黙々と口を動かしていた。追加料金で頼んだ2枚目のお好み焼きが、眼前から消え失せようとしている。
相談が佳境を迎えた辺りで、お好み焼きに対して向けられていた平良の視線が、再び手前の女子高生に向けられた。店主に悩みを話し尽くした女子高生を目にし、まるで答え合わせでもすよかのように平良がつぶやいた。
「・・・やっぱり、恋愛相談か」
それは、誰に伝えるためでもなく、ただ無意識に零れただけの言葉だった。