国立大学附属高校の男子生徒は、熊沢 圭一と名乗った。学年は凛花や平良と同じ2年生であり、現在、関東地方にある国内屈指の国立大学合格を目指し勉学に励んでいるらしい。国立大学附属高校が毎年10人前後の合格者を出していることを考えれば、その可能性は十分にある。

 熊沢は超が付くイケメンではないものの、平良よりは断然女性ウケする容姿で、中薗や島田、長谷川などはチラチラと熱視線を送っている。

「僕はこれまで、勉強以外のことは全く考えずにきました。小学生の時から毎日3時間以上塾で勉強し、中学から高校と、今でも毎日4時間以上塾で講義を受け、自宅でも毎日5時間の自主勉強は欠かしません」

「9時間とか・・・」

 思わず長谷川が声に出してしまう。
 それほどまでに、毎日のスケジュールが一般の高校生と比較すれば異常だった。一応、川中高校も進学校と認知されているが、睡眠時間という項目が無さそうな生徒はいない。

「正直なところ、限界を感じることがない。と言えば嘘になります・・・でも、僕には目指すものがあります。ここで自分に負ける訳にはいかないのです。だから、僕は心の支えになるような人が欲しい。心が折れそうな時、傍にいてくれる恋人が!!」

 平良は熊沢の自分勝手な言い方に顔をしかめた。
 しかし、熊沢の勉強に対するほどの熱意をもって何かに打ち込んだ経験はない。だから、熊沢の気持ちが理解できていないだけなのかも知れない。

 平良は思考を巡らせる。
 テレビで美人の彼女や奥さんと一緒にいるスポーツ選手を見ることがあるが、物事に集中するためには心の支えになる存在が必要なのかも知れない。と言うか、そういうものなのか?美人は金に流されるのか?金か?所詮は金なのか?

 違う方向に舵を切ろうとしている平良の思考を、熊沢から発せられる熱波が現実に引き戻す。

「その運命の人が一体どこにいるのか?
 それを、ぜひ占って頂きたいのです!!」

 熊沢は熱弁を振るった後、その場で深く深く頭を下げる。その姿を眺めていた中薗や島田まで、つられて頭を下げている。2人は決して熊沢の親族ではないはずだ。

 しかし、ここに占い師は―――――

「気持ちは、痛いほど伝わってきたけど・・・ここで占いをしていたのは前の店主なの。前の店主は去年他界してしまって。だから、もう、占いはしていないのよ。ごめんなさい」

 その説明が終わると同時に、熊沢が顔を素早く上げて店主の表情を窺う。そして、その様子から事実だと察すると、まるでミュージカルの舞台さながらのオーバーアクションで項垂れた。

 今にも泣き出しそうな雰囲気で、鉄板の縁に額を沈める熊沢が、どうにか掠れた声を絞り出す。

「そう・・・なんですか」

 そうつぶやいた熊沢が、不意に平良の方向に視線を動かした。いや、正確に言えば4人が並んでいる鉄板のコチラ側ではなく、凛花が立っているアチラ側に、だ。

 凛花を見た瞬間、熊沢は蝋人形のように固まって動かなくなった。
 一体何が起きたのかと、平良を含めた5人は熊沢を注視する。それからたっぷり5秒以上。突然、熊沢が立ち上がって叫ぶ。

「ここに、いるじゃないか!!」

「「「なに―――――っ!!」」」

 凛花を除く3人の女子高生が、高々喜声を上げた。

 一般的に考えて、容姿は申し分ない。
 一見冷血そうに見えるが、実は人情家で友達思い。その日の気分にもよるが、一応気配りもできる。その上、運動神経抜群で、川中高校では学年トップクラスの優等生・・・

 凛花を分析するも勝てる要素が見付からず、口から魂を半分出したまま3人は真っ白な灰になった。