お店に戻ってきた凛花とその後ろにいる平良を目にし、母親である店主が少し驚いた表情を見せる。まったく期待していなかったのだろう。

「本当にお客さん見付かったんだ」
「あー・・・うん。と言うか、同級生の平良君。たまたま店の前を通り掛ったから、ちょっと、まあ・・・」

 300円で引っ張ってきたとは言えず、凛花は歯切れが悪い。そんな母子のやりとりにはまったく関心を示さず、平良は右側の一番端に腰を下した。あくまでも、平良の目的はお好み焼きを食べることだけなのだ。

 その姿を確認した凛花は脱ぎ捨てていた真っ赤なエプロンを纏い、鉄板の奥側に移動する。そして、手を洗って大きいヘラを掴むと、一番端で湯気を立てるお好み焼きを平良の前に移動させた。

「はい、どうぞ」

 食事用の小型ヘラを2本渡された平良は、それを使って器用にお好み焼きを切り分け始める。その動作を見ると、普段からお好み焼きを食べていることが分かった。広島県人ならば、普通にヘラを使って食べる。変にプライドをもってヘラで食べる。しかし、最近は箸で食べる人も多い。


 黙々とお好み焼きを口に運ぶ平良。まったく会話をしようとする気配はなく、時折ハフハフと口を動かす以外に顔を上げることすらない。

 中学時代からたまに目にすることがあったが、いつもこんな感じで無感情だった。神秘的だとか言う人もいたが、感性がズレているとしか思えない。凛花からすれば、平良は相容れない部類の人種である。だからこそ、今まで接点がなかったのだ。


「それはそうと、その2枚を注文した人たちは?」
「多分、そろそろ来ると思うけど」

 既にほぼ完成しているお好み焼きを前にして、店主であり調理人である母が凛花に訊ねる。予約しておいて来ないお客がいるため、あまり受けたくはないのだが、17時を過ぎた辺りから調理が間に合わなくなるので、ある程度は仕方がない。

「こんにちは」
「いいですか?」

「いらっしゃいませ」

 その時、若い女性の声が重なって店内に響いた。凛花の視線の先、のれんをくぐって入って来たのは制服姿の女子高生2人組だった。この2枚を注文したのは、この2人組なのだろう。

「どうぞ」

 水の入ったコップを、慣れた手つきで2人の手元に置く。目の前に差し出されたお好み焼きに視線を落とした後、2人の顔が店主に向かった。
 鉄板を挟んで平良の反対側に戻った凛花の表情が、その光景を目にして明らかに曇る。

 「あの・・・それで」というセリフと共に、差し出される両手。

 ―――――ああ、また。

「占って下さい」