路線の終点であるバスセンターに到着し、時計を確認しながら二人は小走りで市民病院へと向かう。バスセンターから街路に出ると、すぐ目の前に目的地である白い建物が見えた。
既に18時近いということもあり、帰宅途中の会社員や学生の列が途切れることなく続いている。バスセンターに向かう人波に逆らいながら、点滅する青信号を急いで渡り切った。
凛花がバスの中で調べた情報によると、面会時間は19時まで。渋滞で間に合わないことを危惧していたが、この分だと余裕を持って辿り着けそうだ。
入口に常駐している守衛の前を通り過ぎると、案内板に正面玄関までの道順が表示されていた。その案内通りに進み、二人は正面玄関の自動ドアを通り抜ける。
診察時間が終わっているためか、エントランスの照明は半分落とされ、案内ブースに人影は見えない。確認することもできないまま、壁に掛けられたフロアマップを頼りに奥へと進む。表示によると、小児科の病棟は東棟の9階だ。
二人は薄暗いフロアを、早歩きでエレベーターホールに向かう。凛花は堂々と胸を張って歩き、その後ろを平良がコソコソとついて行く。まるで、二人の人生の縮図のようだ。
「何か、ちょっと、胸が苦しくなってきた」
ここまで先陣を切ってきた凛花が、9階を目指すエレベーターの中で今更のようにつぶやく。それに対し平良は表情を変えず、返事すらしない。
病棟に行きメイという女の子に会ったからといって、どうにかなるとは限らない。それに、その子がもし―――
エレベターが停まる。ポンという電子音に少し遅れて、白い扉が左右に開いた。小児科を学生服の2人がウロウロ歩いていると目立つので、ひとまずスタッフステーションに向かうことにする。周囲を見渡すと、すぐ近くにスタッフステーションの表示が見えた。
「すいません、清水川さんはいらっしゃいますか?」
凛花が出入口から頭を突っ込み、書きものをしている看護師に声を掛けた。その看護師は手を止めると、無言のまま凛花に近付いて来る。
不審者だとでも思われたのだろうか?
凛花が頭の中で言い訳のシュミレーションをしていると、目の前で止まった看護師が肩越しに背後を指差した。
「あそこ」
凛花が振り返ると、小柄な看護師が夕食の用意をしている姿が見えた。
「ありがとうございます」
当たり前に考えると、平良はともかく、凛花はその外見から誰から見ても怪しくは見えない。凛花は礼を言って頭を下げると、教えられた看護師に歩み寄った。
「すいません、清水川さんですか?」
凛花が声を掛けると、食事の用意をしていた看護師が振り返った。その胸元んには、「清水川」というネームプレートが付いている。
「はい、清水川です。けど・・・えっと、私に何かご用ですか?」
清水川さんは小柄な女性で、凛花よりも随分背が低かった。おそらく、身長は150センチあるかないか―――ではないだろうか。おまけに童顔で、同い年・・・いや、見る人によれば、もしかすると凛花より年下だと言うかも知れない。美人ではないが、可愛らしく穏やかな雰囲気の女性だ。
「少しお話しが聞きたいんですけど・・・お忙しそうですね」
清水川は凛花と平良を順番に見て、訝しげな表情をしつつも了承する。
「夕食の準備が終わったら、で良いですか?」
「はい、大丈夫です」
食事の用意が済んだ後で時間を取ってもらうことになり、少しの間スタッフステーションの前で待たせてもらう。
5分ほそすると、配膳を終わらせた清水川、小走りで二人の元にやって来た。
「ごめんなさい、夕食の時間が決まってるものだから」
「いえ、突然、こんな時間に来た私達の方が悪いので。本当にすいません」