文句ない成果を上げた凛花が振り返り、何かを口にしようとして押し黙った。本来ならそこにいるはずの、従者の姿が見えなかったからだ。
「たーいーらー」
戸口に待機している平良を見付けた凛花が、ユラユラと怪しい闘気を纏って歩いて来る。無表情を決め込んでいる平良の頬を、ダラダラと滝のような冷や汗が流れ落ちる。
「何で、そんな所で止まってんの?
助手なんだから、一緒に来なきゃダメじゃん!!」
戦場になりそうな危険地帯に、自ら突撃していく愚か者はいない。だが、そんなことが言えるはずもなく、平良はひたすら沈黙を続ける。
肩を怒らせながら歩いてきた凛花が、何かを思い付いたのか、あからさまに怪しい笑顔を作った。
「平良、今日は出張だから」
「は・・・?」
「長谷川家経由で、市民病院にGO!!」
「イ・ヤ・デ・ス」と、言えたら、どんなに楽だろうか。しかし、そんなことが言えるはずもない。凛花のお陰で数学の点が倍になった。次は英語も教えてくれるという。その効果も、数学で実証済みだ。
それに、平良が凛花の横暴な誘いを断らない理由は他にもある。ただ、本人はまだその理由に気付いていない。
結果的に、平良の返事はこれしかない。
「かしこまりました、ご主人様」
「よし、じゃあ、今日は授業が終わったら迎えに行くから。逃亡しないように」
は・・・何を言ってらっしゃるんですか?
平良の表情が珍しく曇る。
一緒に帰る―――なんてことをしてしまうと、色々とマズイ気がする。他人の動向など気にもならないが、我が身に振り掛かるとなれば話しは別だ。
しかし、2歩前を歩く凛花は上機嫌だ。軽くステップを踏んでいる。とてもではないが、今更断るなんてマネはできない。そもそも、断っても強引に連れて行かれるだけだ。
自分の教室が見えた頃、平良のテンションは底辺を横滑りしていた。
なぜか自分より先に3組に飛び込む凛花。その視線の先には、中薗と島田の姿があった。そう言えば同じクラスだったんだと、今更ながらに平良は思い出した。
平良は食べ掛けの昼食を済ませようと、自分の席に戻って行く。その時だった。
「おい、平良」
突然、背後から男子生徒の声が聞こえた。振り返ると、そこには、凛花が来る度に平良を睨み付けていたクラスメートが、その他3人を引き連れて立っていた。
振り向く動作を返事と受け取めたのか、男子生徒がズカズカと平良との距離を縮める。
「平良って、立花の親戚なんだってな」
平良の頭の中は、一瞬で真っ白なタンポポで埋め尽くされた。
「祖父ちゃんの嫁さんの、親戚の従兄の、近所に住んでいた友達の娘だとか。それに、地元が一緒で、中学の同級生なんだってな」
間違いなくその関係は他人だが、訂正する意味も無いので平良は沈黙を貫く。
「いやあ、てっきり2人は特別な関係かと思ってたぜ。危うく他のクラスのヤツラと、お前をシバクところだった。ハッハッハ!!」
「ハッハッハ!!」って、シャレになってないんですけど!!
目を見開いたまま固まる平良。
その時、男子生徒の肩越しに、凛花を交えて3人で談笑している中薗と目が合った。すると、中薗は親指をピッと立ててニカッと笑った。
「みんなにも言っとかないとな。平良はただの親戚だって。先走って、下校中に襲撃するヤツが出るかも知れないしな」
正面に立つ男子生徒は高笑いを続けながら、バシバシと平良の肩を叩く。それを、無表情のまま我慢して受け止める。
今回は中薗の機転、それとも遊び心?で、面倒なことに巻き込まれなかったけど、これからは色々と注意した方が良さそうだ。
鉄仮面の下ではかなり焦っていた平良が、人知れず胸を撫で下ろした。
「たーいーらー」
戸口に待機している平良を見付けた凛花が、ユラユラと怪しい闘気を纏って歩いて来る。無表情を決め込んでいる平良の頬を、ダラダラと滝のような冷や汗が流れ落ちる。
「何で、そんな所で止まってんの?
助手なんだから、一緒に来なきゃダメじゃん!!」
戦場になりそうな危険地帯に、自ら突撃していく愚か者はいない。だが、そんなことが言えるはずもなく、平良はひたすら沈黙を続ける。
肩を怒らせながら歩いてきた凛花が、何かを思い付いたのか、あからさまに怪しい笑顔を作った。
「平良、今日は出張だから」
「は・・・?」
「長谷川家経由で、市民病院にGO!!」
「イ・ヤ・デ・ス」と、言えたら、どんなに楽だろうか。しかし、そんなことが言えるはずもない。凛花のお陰で数学の点が倍になった。次は英語も教えてくれるという。その効果も、数学で実証済みだ。
それに、平良が凛花の横暴な誘いを断らない理由は他にもある。ただ、本人はまだその理由に気付いていない。
結果的に、平良の返事はこれしかない。
「かしこまりました、ご主人様」
「よし、じゃあ、今日は授業が終わったら迎えに行くから。逃亡しないように」
は・・・何を言ってらっしゃるんですか?
平良の表情が珍しく曇る。
一緒に帰る―――なんてことをしてしまうと、色々とマズイ気がする。他人の動向など気にもならないが、我が身に振り掛かるとなれば話しは別だ。
しかし、2歩前を歩く凛花は上機嫌だ。軽くステップを踏んでいる。とてもではないが、今更断るなんてマネはできない。そもそも、断っても強引に連れて行かれるだけだ。
自分の教室が見えた頃、平良のテンションは底辺を横滑りしていた。
なぜか自分より先に3組に飛び込む凛花。その視線の先には、中薗と島田の姿があった。そう言えば同じクラスだったんだと、今更ながらに平良は思い出した。
平良は食べ掛けの昼食を済ませようと、自分の席に戻って行く。その時だった。
「おい、平良」
突然、背後から男子生徒の声が聞こえた。振り返ると、そこには、凛花が来る度に平良を睨み付けていたクラスメートが、その他3人を引き連れて立っていた。
振り向く動作を返事と受け取めたのか、男子生徒がズカズカと平良との距離を縮める。
「平良って、立花の親戚なんだってな」
平良の頭の中は、一瞬で真っ白なタンポポで埋め尽くされた。
「祖父ちゃんの嫁さんの、親戚の従兄の、近所に住んでいた友達の娘だとか。それに、地元が一緒で、中学の同級生なんだってな」
間違いなくその関係は他人だが、訂正する意味も無いので平良は沈黙を貫く。
「いやあ、てっきり2人は特別な関係かと思ってたぜ。危うく他のクラスのヤツラと、お前をシバクところだった。ハッハッハ!!」
「ハッハッハ!!」って、シャレになってないんですけど!!
目を見開いたまま固まる平良。
その時、男子生徒の肩越しに、凛花を交えて3人で談笑している中薗と目が合った。すると、中薗は親指をピッと立ててニカッと笑った。
「みんなにも言っとかないとな。平良はただの親戚だって。先走って、下校中に襲撃するヤツが出るかも知れないしな」
正面に立つ男子生徒は高笑いを続けながら、バシバシと平良の肩を叩く。それを、無表情のまま我慢して受け止める。
今回は中薗の機転、それとも遊び心?で、面倒なことに巻き込まれなかったけど、これからは色々と注意した方が良さそうだ。
鉄仮面の下ではかなり焦っていた平良が、人知れず胸を撫で下ろした。