「アンタ達3人の言い分は、よーく分かったよ」

 中薗は対峙する位置で立ち止まると、腰砕けになっている3人を見下ろしながら言い放つ。

「つまり、中学県大会得点王。県内トップに君臨する県立商業高校からスカウトされる才能を持ち、去年の高校新人戦ベスト4の立役者であるこの私に嫉妬し、同じ中学からきた茜を腹いせにイジメていたと。そういうことよね?」

 中薗の挑発的な言葉に、長谷川が顔を真っ赤にして立ち上がる。そして、ツバを飛ばす勢いで言い返した。

「アンタさあ、なに上からモノ言ってんの?
 たまたま得点チャンスが多いポジションだから目立ってるだけで、アタシらと大して変んないじゃない」

 いつもの長谷川の強気な発言を聞き、残りの2人も立ち上がる。

「そうよ。アンタなんか顧問に気にられてるだけで、よその学校に行ってたらレギュラーすらなれなかったんじゃないの?」
「今のうちにいい気になってれば?ウチらの代になったら、誰もアンタにパスなんかしないから」

 開き直った3人が一列に並び、歪んだ笑みを浮かべる。
 その態度を見て、中薗の後ろでやり取りを聞いていた凛花が前に出ようとする。しかし、そんな凛花を中薗が右手を伸ばして制止した。そして、3人の態度を鼻で笑い飛ばし、人差し指を突き付けて宣戦布告する。

「ふん、あっそう。じゃあ、アンタ達と私達とでスリー・オン・スリーの勝負しようか。それで、負けた方が退部する―――ってのはどう?」

 3人の表情が固まる。「退部」とういう言葉が、3人の呼吸をも止めている。
 無理もない。
 人間性はともかく、この3人も中学生の時から、ずっとクラブ活動はバスケットボール。レギュラーを目指して努力してきたことも、努力していることも間違いないだろう。その全てを、「この勝負に賭けろ」と挑発されているのだから。


 長谷川は右側に立つ川口に視線をやり、そして反対側に立つ竹田の方を見る。こちら側は3人揃っている。それならば、中薗の3人目とは誰なのか。当然のように浮かんだ疑問は、中薗から発せられた言葉ですぐに判明する。

そっちは当然その3人。こっちは私と茜。と・・・・・」

 床に座り込んだままの島田に視線を落とした後、中薗はクルリと振り返って満面の笑みを浮かべた。

「立花さん、の3人」

 中薗の話しを聞いていた凛花が、自分自身を指差して目を見開く。

「え? え? え? 私? バスケなんてやったことないけど?」
「大丈夫、大丈夫。何とかなるって」
「ええ―――――、何とかなる訳ないじゃん!!」

 ニコニコと笑う中薗と、うつむいたままの島田。そして、飛んでいきそうなほど頭をブンブンと左右に振る凛花。その光景を目にした3人の表情から憂いが消え、自信に充ち溢れた表情に変わった。

 確かに、中薗は2年生の中では一番上手い。本当は3人とも、事実としてそれは認めていた。しかし、バスケットボールは1人だけが上手くて勝てるスポーツではない。
 中薗以外は、お荷物部員とド素人。こちらは来年のレギュラーが3人。どう考えても負ける要素はない。負けたとしても、どうせ何か理由をつけて辞めないだろう。中薗はいなければ困るし、その時は二度と偉そうな口が利けないように、土下座写メでも撮ればいい。

 長谷川は左右の2人と顔を合わせた後、込み上げる感情を圧し殺し平静を保つ。

「分かった。それで、いつにする?」

 経験はともかく、凛花は運動神経だけなら学年でもトップクラスだ。それを知っている3人としては、余り練習をさせたくはなかった。

「じゃあ、試験の最終日。部活が始まる前・・・で、どう?」

 中薗の答えに、3人が、誰よりも凛花が驚いた。

「ちょ・・・練習する時間無いじゃん!!」

 背後から肩を掴んだ凛花が、中薗を前後にガクガクと揺さぶる。
 あと10日ほどしかないし、そもそも試験期間中だから練習する時間も無い。体育の授業程度しか経験のない凛花が、とてもではないが戦力になるとは思えなかった。

「あうあうあう、だ、だから大丈夫、大丈夫だってば」

 凛花の手に自分の手を重ねた中薗は、そのままギュッと握り締める。

「立花さん、関係ないことに巻き込んでごめん。ということで、試験最終の日に迎えに行くから、ね」
「ああ、うーん、もう・・・分かったわよ」

 笑顔の中薗に、凛花はため息を吐きながら頷いた。
 とはいえ、そのもそも島田の問題を解決しようとして、朝早くから部活を覗きに来たのだ。ここまできて、凛花にこの件から手を引くつもりはなかった。


 少し離れた場所で一部始終を眺めていた平良は、その光景に思わず目を見開いた。島田の胸に食い込んでいたカギが、ほんの少しだけ色が薄くなったように見えたのだ。