前面に立っている女子高生が、鉄板の向こう側にいる凛花に気付く。
「あれ、立花さんよね?」
「うん。3組の中薗さんと、島田さんよね?」
思わ出会いに目を見開く中薗に、凛花は営業スマイル全開で名前を呼ぶ。特に仲が良い訳ではないが、お互いに存在を認識している。そこで平良の存在を思い出した凛花は、下手な詮索を受けないために先手を打った。
「ここ、このお店は私の自宅。それで、コレは中学からの同級生で、お好み焼き待ち」
凛花の紹介にチラリと平良を確認した中薗は、首を捻って背後にいる島田に訊ねる。
「ねえ、知ってる?」
「え・・・っと、見たことない、かな。同じ学年じゃないとか?」
「ええっ!?」
その回答に、思わず凛花は叫んでしまう。
「確か、2人とも2年3組だったと思うんだけど?」
「うん、合ってる」
「名前は平良。同じクラスのはずなんだけど?」
凛花の言葉に平良を再確認する2人。しかし、再び小首を傾げ、2人同時に左右に首を振った。
唖然とする凛花。もう2年生になって2ヶ月が経過。それなのに、クラスメイトに認知されていないなど、どんな性能のステルス機能だというのか。アメリカ空軍からスカウトされそうだ。
凛花は無意識のうちに、憐憫の眼差しを平良に送っていた。
「それはそうと、2人ともバスケ部だったよね。かなり練習が厳しいって評判だけど、何でこんな時間にいるの?」
そう問い掛けながら、先ほどの電車内を思い出す。「試験期間中だからか」と自己解決しながら、そのまま言葉を続ける。
「試験期間中は、さすがに休みだよね。で、えっと、何にする?」
女子高生が2人で来店する場合、しかも初めてとくれば理由は決まっている。それでも、決してコチラからは訊ねない。ここはお好み焼屋だし、味にも自信がある。そもそも、その要望には応えてあげられないから。
「あの・・・さ、占いとか、結構有名だよね?」
やはり、そうきたか。
中薗がやっとの思いで吐き出した言葉に、凛花は思わず泣きたくなる。その気持ちをグッと抑え、言いたくもない常套句を使う。
「お好み焼きを注文した人にサービスで占いをしていたのは、私のお祖母ちゃん。先代の店主なんだ。でも、去年亡くなったから」
「あ・・・ごめん」
「いや、こっちこそ、ごめん」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
そんな状況を完全に無視し、お好み焼きを切り分ける音がカシャカシャと聞こえてきた。店主が作ったお好み焼きを、平良が食べ始めたのだ。緊張感を和らげる効果はあったが、主w図凛花は平良つむじに厳しい視線をぶつけた。
「まあ、いつも言ってるんだけど、誰かに話せば楽になることもあるし、もしかしたら、何か良い解決方法が見付かるかも知れないわよ。秘密は絶対に守るから、何か心配事や相談事があったら、オバサンが相談に乗っちゃうけど?」
「当然、私も秘密は守るよ!」
店主の柔らかい声が聞こえ、それに凛花も同調する。店主の目の前に座っていた中薗は少し考えた後、決意したように身を乗り出した。
「じゃあ、聞いてもっちゃおうかな?」
3つ離れた席に座る2人をチラリと見た平良は、お好み焼きを口に運びながら首を傾げた。