立花 凛花は、県立川中高校の有名人だ。
凛花は身長165センチで、手足が長いスラリとしたモデルスタイルだ。肩より30センチほど長い黒髪は艶やかで、背筋を伸ばして颯爽と歩く凛花の後ろでキラキラと輝きを放っている。帰宅部がゆえに日に焼けていない肌は、陶磁器に負けないほどに白い。そのため、元々黒目が大きい瞳をいっそう際立たせ、整った顔立ちをより魅力的に見せている。さらに、生まれながらのヒロイン属性なのか、学力は常に学年10位以内、運動不足にも関わらずスポーツ万能というマンガの主人公顔負けのハイスペックぶりである。
しかし、残念なことに、外見とは違い言葉遣いは粗暴で、無駄にキレがある動作には色気の欠片も感じられない。そして、サッパリとした性格には、ツンの部分しかないと断言できる。さらに、オシャレには無頓着で、色恋沙汰には疎く、流行りものには無関心―――と、壊滅的なまでに、女子高生としての女子力は欠如している。この飾らない人柄や容姿から、男子生徒よりも、むしろ同級生や下級生の女子からの人気が高い。
それでも、スペックは校内でもトップクラスである事に疑いの余地はなく、入学以来幾人もの勇者が凛花にアタックしてきた。だが、「えびすや」以外に興味がない凛花を相手に、勇者はことごとく討ち死にした。まさに、魔王は最強だった。
難攻不落のツンしかないお姫様。男子生徒の間では密かに、ツンだけでデレがない姫、「ツンだけ姫」と呼ばれていたり、いなかったり。
次の日―――
いつもより1本早い電車に乗った凛花は、教室に到着するなり背負っていたリュックを置いて廊下に飛び出した。
向かう先は、2年3組。昨夜、LINEで友達に確認したから、間違っていないはずだ。
凛花が廊下を歩くだけで自然と視線を集める。廊下の真ん中を歩いているだけなのだが、なぜか目立ってしまう。しかし、凛花本人はそんな事を気にする素振りさえも見せず、2年3組の教室に辿り着くと扉からグイっと顔を突っ込んだ。
「凛花おはよう。ウチのクラスに何か用?」
扉付近にいた顔見知りの女子生徒が、凛花に気付いて声を掛ける。凛花は「おはよ」と軽く挨拶すると、その女子生徒に訊ねた。