フロアを見て周っていると、瑞花が自販機で買った飲み物を開けながら言った。


「なにしよっか? ミニボーリング? それともビリヤードとかダーツとかやってみる?」

「瑞花、ビリヤードなんてやったことあるの?」


 何気なく、ふと浮かんだ疑問だった。

 ビリヤードもダーツも彼氏に教えてもらう以外でする機会なんてないだろう。そう思ってビリヤード場に目をやると、案の定女の子グループはいない。もちろんわたしは未経験者だ。


「皆渡くんに教えてもらって、何回かね」


 ほらやっぱりと少しいじけた目線を送ると、また瑞花の耳打ちがはいった。


「緋莉も浅桜くんに教えてもらいなよ」

「なっ! もう、ちょっと瑞花!」


 咄嗟にショルダーバッグを瑞花に向かって振り上げたが、瑞花はそれをひらりとかわすと、あはっと笑って言った。


「ねえ浅桜くん! 緋莉に教えてあげてよ、ビリヤード」


 できるかどうかの確認もせずに依頼するなんて、もし浅桜くんが初めてだったらどうするんだろう。


「いいけど、立華やったことないの?」


 イケメン男子はなんでも卒なくこなすイメージがあるけれど、浅桜くんも例外ではないらしい。少し恥ずかしい気もするが誰にでも初めてはある。浅桜くんに教えてもらえるのなら、ちょっとだけ、頑張ってみようかな。

「う、うん。こういうところって、あまり来たことがないから……」

 淡い期待を込めてちらりと浅桜くんに目をくべる。浅桜くんは口に手を当てて目を逸らすと、「それなら、仕方ないよな……」と小さな声で言ってくれた。

 照れたようにも見えるその態度に、また胸がどきんと跳ねる。こんなことで舞いあがっちゃうなんて、わたしこの先大丈夫かな……?