アオイペンギンがユナペンギンを抱きしめたとき、結菜と目があった。
彼女はペンギンの抱擁に顔を朱に染めて、恥ずかしそうにしていた。
「蒼君、その、大好きだよ」
突然言われたその言葉に、体が熱を帯びる。
同時に、結菜を抱きしめたくなる衝動に駆られる。
それを抑えようと必死だったから、こんなことを口走ってしまった。
「……僕もだよ」
恥ずかしいな、こうやって改めて言うと。
お互い恥ずかしくなって、沈黙が流れてしまう。
「……次、行こう?」
結菜の声に我に返る。
彼女の方を見てみると、恥ずかしそうにしていたが、それでも楽しそうに微笑んでいた。
「うん」
僕は彼女の手を握り、次のコーナーに行く。
そこは、屋上に水槽があり、少しスペースが狭いのがネックだが、小さな秘密基地のような感覚になる。
そこにいるのは、オットセイとアザラシ。
太陽に照らされて、すいすいと気持ちよく泳いでる。
「……そと、暑いね」
結菜は手をうちわ代わりにしながら、自身を仰いでいた。
僕はそんな彼女に朗報と言わんばかりに話す。
「かき氷、買ってこようか?」
「いいの!?」
結菜が食いつく。
やはり、涼味を欲していたようだ。
目をキラキラと輝かせて、こちらを見るその姿はご褒美を待つ犬のようだった。
この子はチワワかな?
可愛すぎるので、僕が飼ってあげたい。
「いってくる」
「ありがとう!」
僕は屋台のおじさんにかき氷を頼んで、お金を渡す。
頭にタオルを巻きつけているおじさんは、笑顔でかき氷を作っている。
そういえば、前に輝たちと遊びにいった時のかき氷屋台をしていたおじさんを思い出す。
「兄ちゃん、あそこにいる子、彼女だろ? 持っていってやるからいってやりな。兄ちゃんイケメンだし、彼女ちゃん可愛いからサービスだ」
聞き覚えのある言葉に、僕はハッとする。
おじさんは、僕とじっと見て、穏やかな目を見開いた。
「おおっ! 兄ちゃんあの時の! 久しぶりだなぁ! わははっ!」
まさかの本人だった。
「あの時はお世話になりました」
「そーかそーか、それにしても兄ちゃん、いい彼女持ったな。顔つきがよくなったし。ほれ、かき氷」
おじさんから、ふたつ、かき氷を受け取ると、僕は会釈して結菜のところへ向かう。
この人、また僕らの関係をあてたよ。エスパーかなと思っていると、
「〝青春に年齢なんて関係ない。何年経っても終わらない。死ぬまで楽しめ〟」
不意におじさんが言った言葉に反応した。
僕が一番好きな小説のラストのセリフだ。
僕の亡き祖父──不知蓬の遺作である『ペンギンの恋』という作品のセリフをなぜ、言ったのだろう。
真意は分からないが、僕は結菜が待っている水槽へと足を運んだ。
僕が近付くのに気が付いた結菜はこちらに振り向き、笑顔で手を振った。
「蒼君、ありがとう! はい、お金」
そう言って、150円を僕に渡す。
「いいのに……。まぁ、ありがたく受け取っておくよ」
「いやぁ、なんかほら、お金のトラブルって一番嫌じゃない? それで蒼君と別れるなんて私は嫌すぎる」
たしかに、金銭トラブルでの離婚などは多い。
「僕も嫌」
結菜は本気で僕と向き合ってくれているのだ。
それがとっても、嬉しい。
「ありがとう」
きっと結菜はいい母親になるはずだ。
しっかりしているし、面倒見もいい。
そんな未来を想像して、頬が緩む。
「蒼君、なにか考えている?」
「結菜がお母さんになったらどんな感じかなって考えてたよ」
そう言うと、結菜の頬はますます赤くなる。
ぷしゅーと、煙まで出ている。
「あ、蒼君、私、嬉死しちゃうかも」
結菜の目は今にもグルグルと回りそうだ。
「蒼君は、図書司書さんをしながら、小説を書くの。そして、書籍化して映画化して、バカ売れしてほしいなぁ」
「そんな無茶な」
そう言いながらも、頭の中は僕が結菜と一緒に書いた小説がアニメ映画化している映像が浮かぶ。
「でも、本当にそうなったらいいね」
「絶対私たちならなれるよ」
結菜はかき氷のストローをこちらに向ける。
いたずらっこのような笑顔が可愛くて、つい頭を撫でてしまった。
「も、もうっ! 髪が乱れちゃう……。でも、気持ちいいからいいけど」
結菜との時間がずっと続きますように。
そう、願いながら、そっと手を髪から離した。
彼女はペンギンの抱擁に顔を朱に染めて、恥ずかしそうにしていた。
「蒼君、その、大好きだよ」
突然言われたその言葉に、体が熱を帯びる。
同時に、結菜を抱きしめたくなる衝動に駆られる。
それを抑えようと必死だったから、こんなことを口走ってしまった。
「……僕もだよ」
恥ずかしいな、こうやって改めて言うと。
お互い恥ずかしくなって、沈黙が流れてしまう。
「……次、行こう?」
結菜の声に我に返る。
彼女の方を見てみると、恥ずかしそうにしていたが、それでも楽しそうに微笑んでいた。
「うん」
僕は彼女の手を握り、次のコーナーに行く。
そこは、屋上に水槽があり、少しスペースが狭いのがネックだが、小さな秘密基地のような感覚になる。
そこにいるのは、オットセイとアザラシ。
太陽に照らされて、すいすいと気持ちよく泳いでる。
「……そと、暑いね」
結菜は手をうちわ代わりにしながら、自身を仰いでいた。
僕はそんな彼女に朗報と言わんばかりに話す。
「かき氷、買ってこようか?」
「いいの!?」
結菜が食いつく。
やはり、涼味を欲していたようだ。
目をキラキラと輝かせて、こちらを見るその姿はご褒美を待つ犬のようだった。
この子はチワワかな?
可愛すぎるので、僕が飼ってあげたい。
「いってくる」
「ありがとう!」
僕は屋台のおじさんにかき氷を頼んで、お金を渡す。
頭にタオルを巻きつけているおじさんは、笑顔でかき氷を作っている。
そういえば、前に輝たちと遊びにいった時のかき氷屋台をしていたおじさんを思い出す。
「兄ちゃん、あそこにいる子、彼女だろ? 持っていってやるからいってやりな。兄ちゃんイケメンだし、彼女ちゃん可愛いからサービスだ」
聞き覚えのある言葉に、僕はハッとする。
おじさんは、僕とじっと見て、穏やかな目を見開いた。
「おおっ! 兄ちゃんあの時の! 久しぶりだなぁ! わははっ!」
まさかの本人だった。
「あの時はお世話になりました」
「そーかそーか、それにしても兄ちゃん、いい彼女持ったな。顔つきがよくなったし。ほれ、かき氷」
おじさんから、ふたつ、かき氷を受け取ると、僕は会釈して結菜のところへ向かう。
この人、また僕らの関係をあてたよ。エスパーかなと思っていると、
「〝青春に年齢なんて関係ない。何年経っても終わらない。死ぬまで楽しめ〟」
不意におじさんが言った言葉に反応した。
僕が一番好きな小説のラストのセリフだ。
僕の亡き祖父──不知蓬の遺作である『ペンギンの恋』という作品のセリフをなぜ、言ったのだろう。
真意は分からないが、僕は結菜が待っている水槽へと足を運んだ。
僕が近付くのに気が付いた結菜はこちらに振り向き、笑顔で手を振った。
「蒼君、ありがとう! はい、お金」
そう言って、150円を僕に渡す。
「いいのに……。まぁ、ありがたく受け取っておくよ」
「いやぁ、なんかほら、お金のトラブルって一番嫌じゃない? それで蒼君と別れるなんて私は嫌すぎる」
たしかに、金銭トラブルでの離婚などは多い。
「僕も嫌」
結菜は本気で僕と向き合ってくれているのだ。
それがとっても、嬉しい。
「ありがとう」
きっと結菜はいい母親になるはずだ。
しっかりしているし、面倒見もいい。
そんな未来を想像して、頬が緩む。
「蒼君、なにか考えている?」
「結菜がお母さんになったらどんな感じかなって考えてたよ」
そう言うと、結菜の頬はますます赤くなる。
ぷしゅーと、煙まで出ている。
「あ、蒼君、私、嬉死しちゃうかも」
結菜の目は今にもグルグルと回りそうだ。
「蒼君は、図書司書さんをしながら、小説を書くの。そして、書籍化して映画化して、バカ売れしてほしいなぁ」
「そんな無茶な」
そう言いながらも、頭の中は僕が結菜と一緒に書いた小説がアニメ映画化している映像が浮かぶ。
「でも、本当にそうなったらいいね」
「絶対私たちならなれるよ」
結菜はかき氷のストローをこちらに向ける。
いたずらっこのような笑顔が可愛くて、つい頭を撫でてしまった。
「も、もうっ! 髪が乱れちゃう……。でも、気持ちいいからいいけど」
結菜との時間がずっと続きますように。
そう、願いながら、そっと手を髪から離した。