「驚きの連続だったよね、ごめんね」
ㅤ混乱させてごめん、と秀哉に謝ると、秀哉は慌てて言葉を返した。
「こっちこそ、一人で抱え込んで辛かったよな。」
「そんなことないよ。」
ㅤ色々な気持ちがこみ上げてこないように、咄嗟にそう言った。
ㅤ私は一度深呼吸すると、秀哉に明るく声を掛けた。
「じゃあ、この手紙を七瀬さんの元へ送ろうか。これからもっと驚くかもしれないけど、覚悟してね。」
ㅤそれから、秀哉を先程のキャビネットの前へと誘導した。
ㅤキャビネットの上にはやはり白い箱が置いてある。
「この箱はただの箱のように見えるけど、“ポスタ”といって、転移するための大切な道具なの。」
ㅤ『ポスタ』は洋封筒の形をした、手紙が入るほどの大きさの白い箱である。
ㅤ フラップを上げて、中に手紙を入れ、フラップを閉じる。
この過程の中を『二年前に想いが届きますように』と願いながら行えば、転移される。
ㅤそう説明しながら、実際にフラップを開いて中を見せる。
ㅤ中は何も入っておらず、空の状態である。
「じゃあ、一度やってみるね。」
ㅤ一通り説明したので、七瀬さんの手紙を転移させることにした。
ㅤフラップを開けて、手紙をそっと中に入れる。
『二年前の七瀬さんにこの想いが届きますように』と願いながら。
ㅤ手紙が入ったことを秀哉が確認した後、カチッとフラップを閉める。
「じゃあ、フラップを開けるね。」
ㅤポスタの中を覗くと、案の定入っていた手紙が無くなっている。
ㅤ何度も行っているはずの私ですら少し不思議に思うのに、秀哉は...と彼の方を見ると、やはり目を丸くして呆然としていた。
「信じられないかもしれないけど、これがここ、望月手紙店の秘密なんだ。」
ㅤふと、沈黙の空気が流れる。
ㅤ秘密を知った秀哉に何を言われるだろう、とその時の私は少し緊張していた。
数分後、彼はポスタから目を離して私を見る。
「...分かった。こんな大事な秘密を教えてくれてありがとな。」
ㅤ本当は信じられないだろう。
でも、秀哉はこの事実を受け入れようとしてくれている。
ㅤそして、それ以上に私の気持ちも考えてくれる。
ㅤそんな存在が今の私にとって凄く有難かった。