「お話は分かりました、では大切な手紙をお預かりする前に理解して頂きたいことが三つあります。」


 ㅤそう言って、私は人差し指をピンッと立てた。
 ㅤ手紙によって未来を変えられるかもしれないが、過去は変えられないこと。
 ㅤそして、小物であれば封筒の中に入れることができる。
 ㅤ最後に、このことは決して誰にも知らせてはいけないということ。


「...これらを守って頂けるようでしたら、喜んで手紙をお預かりさせていただきます。」
「分かりました、お願いします」


 ㅤ音海さんは真剣な表情で頷いた。
 ㅤでは少しお待ちくださいね、と声を掛け、私は店の奥のキャビネットに向かった。
 アンティーク調のキャビネットの上には白い箱が置いてあり、引き出しには鍵がかかっている。
 ㅤ私はそこに、ネックレスとして着けていた同じアンティーク調の鍵を挿した。
全体の長さは四センチほど。
鍵の持ち手の部分には一つ、明るい黄色の小さな石がついている。
 ㅤそして、引き出しから素早く数枚の洋封筒と封蝋、手のひらに乗せられる程の大きさのぬいぐるみを一つ取り出し、アンティーク調のトレイに置き、鍵をかけた。


「お待たせしました、まず転移には専用の封筒が必要です。こちらの中からお好きなものをお選び下さい。」


 ㅤ転移専用の洋封筒は『アンヴィ』と呼ばれている。
アンヴィは無地や箔押しされたものなどシンプルな封筒が多い。


「次に封蝋を押していただきます。七瀬さんのことを想いながらそっと押してください。」


 ㅤ何だか緊張気味の音海さんを落ち着かせるように微笑む。
 音海さんはそっと丁寧に手紙を封緘すると、私に手紙を渡した。
 封された手紙を見てみると、ヘッドにデザインされているパールライムグリーンのフクロウが綺麗に押されていた。
 ㅤ目が大きくて丸く、手紙を咥えたフクロウ。
 ㅤそして、私は手紙の封蝋側を音海さんの方に見せると手紙に指を差して言った。


「このフクロウが手紙を七瀬さんの元へ運んでくれます。」


 音海さんにはこちらをどうぞ、とトレイから取り出したのは、封蝋と同じフクロウのぬいぐるみだ。


「この子は“ウッフィー”といいます。手紙が届く時間は一年=一ヶ月待たないとなりません。音海さんの場合、二ヶ月程お待ち頂かなければなりません。」


 ㅤこの子はこの手紙の代わりのようなものです、と私は説明を続ける。


「手紙が七瀬さんの元に届くと鳴き声で教えてくれます。この子の頭を撫でれば、ここ、望月手紙店に帰ってくるので、ウッフィーを返しに来る必要はありません。」


 ㅤもし、転移を取り消したい場合はウッフィーをこちらにお返し頂ければ大丈夫です、そう言いながらウッフィーを手渡した。


「何かご不明な点はございますか?」


 ㅤ音海さんは少し混乱しているのか、頭の中を整理しているようだった。
 ㅤちらりと隣に座っている秀哉の方を見てみると、秀哉も同じように上手く状況を飲み込めていないようだった。
 ㅤ私はそんな様子を見て苦笑すると、音海さんを急かさないようにそっと待った。


「いいえ、大丈夫です。」


 ㅤ数分後、少し気が晴れたような顔つきで音海さんは私に言った。
 ではㅤこの大切なお手紙は手紙屋が責任をもって届けますね、と私は音海さんににっこりと微笑んだ。


「よろしくお願いします。」


 ㅤ音海さんは一度お辞儀をすると、ウッフィーを手に持ち、手紙屋を去っていったのだった。