ㅤ一旦、晴達には上がってもらい、私は秀哉から受け取った手紙を開いた。
ㅤ手紙に書かれていたのは、私のことだけだった。
ㅤ祖母が私の心配をしてくれている。
そう思うだけで心が暖かくなり、同時に申し訳なくなった。
そして、大好きな祖母にどうしようもなく逢いたくなった。
ㅤよほど哀しそうな表情を浮かべていたのだろうか、秀哉は大丈夫だと言いながら、優しく私の頭を撫でてくれた。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
ㅤどうして死去した祖母から手紙が来たのか知りたいよね、そう言って私は望月手紙店の秘密を教えるかどうか考えた。
ㅤこの手紙が秀哉の元に来たということは教えてもいいだろうという結論に至り、私は手紙屋の奥に案内した。
ㅤその時、私が常に着けているアンティーク調の『鍵』のネックレスが誰にも気づかれぬよう、キラン、と光ったのだった。
「どうやって香澄さんの手紙が届いたか詩乃は分かるか?」
「うん、知っているけど、今から話すことは絶対に誰にも言わないでね」
ㅤ分かった、そう言って秀哉は複雑そうな顔をした。
「秀君は、この町で密かに流れている噂を聞いた事ある?」
「いや、ないな」
ㅤここ、望月手紙店は過去や未来に手紙を送ることが出来るらしい、という噂。
これは紛れもなく事実である。
ㅤでもそんなの冗談だろ、と誰もこの噂を真剣に受け止める人はなかなかおらず、信じる人はほんの僅かだけだった。
どうしてここは過去や未来に手紙を送られるようになったのか詳しいことは私にも分からない。
ㅤでも、送る理由の見当はついている。
ㅤ──それは、世の中には過去や未来に後悔や未練、不安などを抱える人がいて、今も苦しんでいる。
また、色んな思いを抱えたまま、何らかの理由でこの世を去っていく人だって少なからずいるのだ。
ㅤ言葉や想いはそんな人の心を癒したり、生きる支えになる力を持っている。
手紙はそれらを人に伝えることが出来る素晴らしいもの。
ㅤだから、手紙屋はその言葉達を手紙にのせて人に届ける使命があるのだ。
ㅤそれがたとえ過去や未来だとしても...