「暑いねー、晴くん」
ㅤ日差しが強い夏のある日、望月手紙店で詩乃と晴が椅子に座ってのんびりと過ごしていた。
ㅤ動きが抑えめのマッシュヘアの彼、天野晴は元気で明るく、裏表のない人である。
彼は週三日、望月手紙店で手伝いをしている。
ㅤ ──カランカランッ
ㅤ客が来た合図を知らせるドアベルが鳴り、扉の方を見ると、望月手紙店のもう一人の従業員、鳴海香織が現れた。
「詩乃さん、こんにちは」
ㅤ漆のように黒いストレートロングヘアの彼女は丸顔の『可愛い』という印象が強い詩乃とは違い、『美人』という言葉が似合う、クールビューティーで華やかな雰囲気を纏っている。
「香織、俺には何も言わないのか!?」
「はいはい、アイス持ってきたわよ」
ㅤやったー!ありがと、と言った晴は香織と同期の大学生だ。
彼女も望月手紙店の手伝いを週二日行っている。
ㅤ祖母が病気で亡くなってから一年。
幸いにも子供の頃から店を手伝っていたので、手紙屋のあれこれは知っており、私は祖母の形見となる大事な手紙屋を受け継いだ。
ここ一年、人の助けを借りながらなんとかやってきている。
「暇ですねー...」
「そうだねー」
ㅤ私と晴の二人で会話している中、香織は黙々とバッグからパソコンを取り出し、何やら調べ物をしていた。
「香織ちゃん、何を調べているの?」
「再来週に父の誕生日があるので、プレゼントどうしようかなと思いまして...詩乃さんはお父さんに何を渡しましたか?」
「...両親が小学生の頃に事故で亡くなったから、力になれないかな、ごめんね」
ㅤなんか、すみませんと言いながら香織はパソコンに目を移した。
ㅤなんだか気まずい空気になってしまい、どうしようかと視線を巡らせていると、『カランカランッ』とドアベルが鳴った。
ㅤいらっしゃいませ!、と私は思わず顔を上げると、なんとそこに現れたのは上京したはずの幼馴染、秀哉だった。
ㅤおかえり、と驚きを隠しながら笑顔で声をかけると、秀哉はただいま、と懐かしそうに顔を綻ばせた。
ㅤ爽やかなナチュラルブラウンのショートマッシュスタイルの髪に白のインナー、ネイビーのプルシャツとパンツを合わせたスマートなシルエットの大人っぽい彼。
ㅤ一年経っても変わっていないなと思いつつも、ふと浮かんだ疑問を彼に投げかけた。
「そういえば、桜さんが秀君にって手紙を受け取ったけど、帰ってきたのはその手紙が関係しているの?」
ㅤ桜さんとは秀哉の祖母のことだ。
朗らかでいつも私に優しく微笑んでくれる人で、本当の孫のように接してもらっている。
「それもあるが、もう一通おかしな手紙が届いたんだ」
ㅤそう言って見せてくれたのは、私の今は亡き祖母からの手紙だった。