ㅤゴトンッ
ㅤ大きく揺れる電車の中、荷物が地面に落ちた音で俺は目を覚ました。
寝起きでもすぐ頭に浮かぶものはつい最近起こった出来事である。
ㅤ数日前まで、俺は故郷から離れた都心で一人暮らしをしていた。
上京して一年しか経っていない俺はしばらくは帰郷しないだろう、と思っていたが、その考えが変わったのはある手紙が原因だった。
ㅤ ──数日前
ㅤ俺はいつものように住んでいるマンションへ帰宅した。
何気なくポストの中を覗いてみると、入っていたのは二通の手紙だった。
ㅤ一通は祖母からの手紙。
元気にしてるかい、という心配の言葉とたまには帰っておいで、というメッセージが書かれていた。
ㅤそして、もう一通は...と送り主を確認してみると、俺は驚き、目を見開いた。
ㅤ差出人は何度見ても『望月架純』、幼馴染である詩乃の亡き祖母からだった。
ㅤ誰かのイタズラかと目を疑ったが、手紙の内容を見る限り、どうやらそうではないようだ。
俺は改めて手紙を読み返すことにした。
ㅤ──秀哉君へ
ㅤ貴方が今この手紙を読んでいる時、私はもうこの世にいないでしょう。
今、詩乃はどうしていますか。
あの子のことだから、きっと無理して手紙屋を続けていることでしょう。
私の母の想いが詰まった手紙屋を。
ㅤ秀哉君には悪いですが、どうか詩乃をよろしくお願いします。
ㅤ詩乃の祖母 架純より──
ㅤ架純さんは俺が幼い頃からお世話になっていた人だった。
また、詩乃が今どうしているのかもずっと気になっていた。
ㅤ──帰るか、故郷に。
ㅤそして何よりこの来るはずのない手紙が送られてきたことに疑問を持ったのだ。
このままにしておけば、気になりすぎて夜も眠れないだろう。
ㅤそう決心した俺は、気がついたら金縛りのように身体が動かなくなっていたのであった。