「詩乃、今度一緒にお花見に行かないか?」
「いいね、行こう!」
ㅤ季節はあっという間に春になり、桜が美しい時期に突入した。
あちこちで桜祭りが行われており、私と秀哉はここ、望月手紙店から近いお花見スポットに向かうことにした。
ㅤ時を刻んできた立派なソメイヨシノ。
そんな見事な桜並木は水辺にあり、橋の上から見下ろしたり、並木道を散歩したり、小舟に乗ったりと様々な角度から楽しむことができ、地元の人に人気の絶景スポットである。
今も満開の桜を見に、多くの人が訪れていた。
「凄く綺麗だね、秀君」
ㅤ淡いピンク色の花は煌びやかで、春の訪れを見る人に実感させる。
私はそんな花々達にしばらくの間、目を惹き付けられていた。
ㅤドンッ
ㅤ桜に目を取られていたため、周りへの注意が疎かになり、誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさい、周りをよく見ていなくて...」
ㅤ怪我はないですか?、と申し訳ない気持ちでぶつかった男性に言う。
「こちらこそ、急いでいたので。」
すらりとした体型の彼はズボンに少しついていた汚れを落とすと、ゆっくり急ぐように去っていった。
私は何気なく男性とぶつかった足元に目を落とす。
すると、そこには彼が落としたであろうハンカチがあった。
「あっ、ハンカチ!ってもう居ないか...」
私はㅤ慌ててハンカチを手に取ったが、その後に彼が去っていったことに気づいた。
「詩乃、大丈夫か?」
「うん。」
詩乃と秀哉が再び花見をし始めた時、男性はある場所に向かって一心に足を動かしていたのだった。