「...何これ?」
ㅤ季節は春。
思わず昼寝をしてしまいたくなるような暖かい日に、私は一通の手紙を手に持ったまま、疑問を抱いていた。
時を遡ること数時間前、私・七瀬千佳は大学で結衣と大喧嘩をしてしまった。
ㅤ喧嘩の原因は互いに相手のことを思い合ってすれ違ってしまったことだと、帰宅中に冷静に考えて気がついた。
ㅤ親友から大切にされるのは凄く嬉しいし、同時に私も大切にしたいと思う。
ㅤ一生の友人なのだから。
ㅤ帰宅して二十分後にバイトに行かないといけないため、結衣には後で謝ろうと考えて、私は一人暮らしをしているマンションに入った。
ㅤ部屋に帰るついでに郵便受けを覗くと、数枚のチラシと一通の手紙があった。
その時、何故かその手紙に目を惹かれた。
とりあえず郵便受けに入っていた全てのものを手に取り、ㅤいつものように洗濯物を取り込んで、外出の準備をする。
そのルーティンをテキパキとこなすと少し時間が空いたので、結衣に連絡を取るより先に手紙の方を見てみることにした。
ㅤ差出人を確認しようと洋封筒の裏に注目するが、何も書かれていない。
私は便箋を開いて内容を確認し、目を見開いた。
それは、二年後の結衣からだった。
ㅤ──千佳へ
ㅤこれは二年後の私からの手紙です。
何が何だか分からないかもしれないけれど、出来れば冷静に見てほしいです。
ㅤまずは、ごめんなさい。
喧嘩をしたことに対してずっと謝れずにいました。
本当にごめんなさい。
ㅤこんなことを知るのはショックだと思いますが、二年後の今、千佳は私の傍にいません。
ㅤ千佳を助けられず、こんな悲しませるようなことしか出来ないダメな私を許してもらおうとは思っていません。
ㅤただ、千佳のことが本当に大好きです。
千佳と出会えて、そして親友でいてくれてとても幸せです。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。
ㅤ結衣より──
「...どういうこと?」
文脈を見る限り、私は二年後生きていないことになる。
何がどうしてそうなったのか、この手紙には何も書かれていない。
ただ、結衣の後悔だけが私に伝わってきた。
私は数分間その場で考え込み、呟いた。
「分かった。結衣、ごめんね。ありがとう。」
ㅤこれから私は死んでしまうのかもしれない、そんな絶望や恐怖より、私は結衣のことを想った。
何故ならすでに運命は決まっているのだから。
ㅤ私はバッグから携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。
「すみません、急ですが今日のシフト変わってもらえませんか。」
ㅤどうしても今やらなければならないことがあるんです、と懇願する。
バイト先の先輩になんとか了承を得ると、携帯電話に文字を打ち込む。
『結衣、ごめんね。』
ㅤそして、私は家から出たのだった。