ㅤ手紙屋を訪れてから二ヶ月、私・音海結衣は机の上に置かれている、フクロウの手乗りぬいぐるみ『ウッフィー』を度々気にしながら過ごしていた。
 ㅤ千佳と大喧嘩し、事故で亡くなったあの日から、私は大学で講義を受けている間も、バイトをしている間も、ずっと千佳の事が頭から離れなかった。
 ㅤどうしてあの時こんなことを言ったのだろう、どうしてすぐ謝らなかったのだろう、と後悔だけが募るばかり。
 ㅤそんな日々に休止符を打ったのは、ある友人の言葉を思い出した時だった。


『親戚から聞いた話なんだけど、私の地元の手紙屋が過去に手紙を送れるらしい。』


 ㅤ信じられないことだけれど、私はその話が頭にこびりついて離れなかった。
 そして、数時間後には手紙屋に行くと決心し、乗り物や宿の手配を済ませ、数日後にある長期連休の日に行くことにした。

 予定通り手紙屋を訪れ、二ヶ月後のある日。
 ㅤいつものように大学のファッションデザイン科の講義を受け、帰宅する。
 ㅤこの日はバイトが休みだったので、描き途中だったデザイン画を完成に向けて手を付けていた。
 ㅤそこでふと机に置いたウッフィーを見つめた。
その時何故か、千佳の『ごめんね、ありがとう』という声が聞こえたような気がしたのだ。
 気の所為かと思いつつ、私は作業に戻る。
 ㅤすると、ホーホーと優しい鳴き声が確かにウッフィーから聞こえてきた。
 思わず顔をウッフィーに向けると、まるで音が小さなアラームのように鳴り続けていた。
 ㅤこれどうすればいいの!?と慌ててウッフィーを手に取った時、望月さんの言葉を思い出した。


『手紙が七瀬さんの元に届くと鳴き声で教えてくれます。この子の頭を撫でれば、ここ、望月手紙店に帰ってきます。』


 ㅤ言われた通りにウッフィーの頭を撫でた瞬間、ウッフィーは優しく包み込んでくれるような淡い光を放ちながら、そっと消えていった。
 私はふぅ、と椅子に座って息をついた。
 ㅤあの手紙が千佳の元に届いたのか...
私は何だかほっとした様な、そうでない様な、複雑な思いにしばらく駆られていた。