「エリク?」
「ユウキは、説明で忙しいだろうし、サトシは無理だろうし、レイヤはユウキのフォローに回っているだろうと、皆が俺に連絡してきた」
「それは、妥当な判断だが・・・。違う。同じというのは、眠っている場所に連れて行けということか?フィファーナだぞ?」
「異世界だと説明して、魔物が居るし、危険な状況になっている可能性も伝えたそうだが・・・」
「無駄じゃな。ユウキたちには悪いが、行って帰ってこられると聞いて、親が眠っている子供に会いに行かない選択肢を選ぶはずがない」
「そうね。ユウキ?どうなの?私たちを連れていけないの?」
「・・・。正直に話せば、わからない。猫や犬は大丈夫だった。”万が一”が、あるかもしれない。父さんと母さんが居なくなったら・・・」
「そうしたら、ユウキたちの誰かに責任を取ってもらえばいい」
老紳士が笑いながら、言っているので冗談だと判断できるが、ユウキたちへの責任云々は別にして、危惧している問題がある。
「なぁユウキ。父さんや母さんを連れて行くのは問題にはならないよな?」
「あぁだが、野良猫や野良子犬を連れて行った時のことを思い出せ」
ユウキは、”連れて行こう”と言い出しそうなサトシを見て問題点を指摘する。
「あっ・・・。魔物化の問題か?」
「あぁ魔物になるとは考えにくいが、スキルを得るくらいは考えられるだろう?」
「・・・」
「父さんや母さんなら、口止めしておけばいいだろうが・・・。スキルは、人を愚かにする」
ユウキやサトシやレイヤは、何度もスキルが人を愚かにする場面を見てきた。だから、怖いのだ。自分たちが信頼している人たちがスキルに侵される場面を見るのが・・・。臆病になっていると言ってもいい。
「ユウキ!儂たちを実験台にすればいい。そのスキルというのが、儂たちが覚えたとして、使えなくする方法はないのか?取り上げるとか?」
「あっ!セシリアのスキル!」
サトシが大きな声をあげたことで、厨房から女子3人が顔を出した。
「なに?セシリアがどうしたの?」
「丁度よかった。マイ。セシリアのスキルだけど、スキルを封印できるよな?」
「え?スキルの封印?あぁそうね。セシリアのスキルは、封印だけど、セシリアよりも熟練が低くないとダメだよ?レア度にも影響するみたいだけど・・・」
「なぁマイ。例えば、俺たちみたいな、オンリーワンのスキルをセシリアは封印できるのか?」
ユウキが、サトシの言葉を引き継いでマイに質問をする。
一緒に長い間、戦ってきたが、お互いのスキルに関しては、話をしない。ユウキが、セシリアのスキルを知らなくても当然な状況なのだ。
「私たちみたいに、熟練度が上がっているスキルはダメだけど、セシリアの熟練度よりも低ければできるみたい」
「解除もできるのだよな?」
「うん。セシリア以外には、解除は不可能だと思う」
「そうか、それなら・・・」
「ん?」
「あぁ父さんや母さんは大丈夫だとしても、他の人たちが大丈夫だとは限らないだろう?そのときに、転移した場所でセシリアに挨拶させて、スキルを封印すればいい」
「・・・。文句を言われない?」
「言われたら、『訓練すれば、使える可能性がある』とか言ってやればいい」
「訓練?」
「魔物との戦闘だな。それも、オンリーワンのスキルを解除するのだから、”魔物の王”の眷属クラスでなければダメだろう?」
「・・・。ユウキ」
ユウキが手を打って立ち上がった。
「エリク。要請は、”受けるつもり”だけど、調整が必要で、少人数での移動になると伝えてくれ」
「わかった。スキルの件は伝えなくていいのか?」
「皆が集まった時でいいだろう?それに、スキルが付くのかわからないからな。つかなければ、説明する必要は無いだろう?」
「わかった」
「墓参りは、俺たちの計画がスタートしてからになるだろう」
「そうね。セシリアに確認する必要もあるし、”すぐ”というのは・・・」
「父さん。母さん。弥生の所には、少しだけ待って欲しい」
「わかった。ユウキたちの都合を優先してくれ、それでやるべき”こと”とは?」
ユウキは、”しまった”という顔をする。
老夫婦に説明したら、反対されるのがわかっている内容だ。
「ユウキたちは・・」
サトシが言いかけたのを、ユウキが制する。
「サトシ。ありがとう。でも、俺が、父さんと母さんに説明する。俺たちの思いと考えを・・・」
ユウキは、老夫婦に自分の考えている内容を説明した。
老夫婦は、ユウキが話をしている内容を黙って聞いている。
「俺は、父さんと母さんに反対されても・・・」
「ユウキ!」
「父さん?」
「反対されるのがわかっている状態なら、ダメだ。必ず成功しろ。そのためなら、儂たちは協力する」
「え?」
「そうね。ユウキが、復讐しないでくれるのが一番だけど・・・。それは難しいのは、私たちでも解る」
老婦人は、目を伏せがちに語るのは、ユウキの告白を聞いて、認めることは出来ないが、止めるのも無理だと判断した。
「ありがとう。必ずとは言えないけど、成功させる」
「わかった。それで、ユウキだけで実行するのか?」
「そのつもりだ。ヒナやレイヤにも”やる”ことが有る。お互いに協力はする」
「そうか、それならいい。ユウキ。お前たちの部屋は、そのままにしておくから、好きに使えばいい」
「・・・」
「わかっている。儂たちに迷惑がかかると思っているのだろう?」
「あぁ」
「ユウキは、わかったが・・・」
老紳士は、ユウキ以外の者たちを見回す。
「父さん。サトシとマイは、異世界・・・。レナート王国に戻る。ヒナとレイヤは、日本でやることが有る。俺と同じだ。父さんと母さんなら、事情が解るだろう?」
ユウキの言葉で、老夫婦はお互いの顔を見てからうなずいた。
ユウキと少しだけ違うが、ヒナとレイヤにも復讐したい相手が居る。
「それで?」
「父さん。母さん。俺たちは、異世界に戻る。ここは、この施設は故郷だけど、俺たちが未来を見る場所じゃない」
「・・・」「そうだな。お前たちのスキルを狙ってバカどもが騒ぐのは間違い無いだろう」
「あぁだから、マイを付けて、サトシはさっさと異世界に帰す」
「・・・。サトシは、変わっていないのか?」
「父さん。母さん。聞いてくれよ」
ユウキとレイヤのサトシのやらかしの暴露大会が始まった。
アリスがウトウトしはじめたので、暴露大会はお開きとなった。
ユウキたちの行動を縛ろうとはしないと言ってくれた。
弥生の墓参りと、定期的な連絡を約束した。サトシとマイだけではなく、ユウキとレイヤとヒナも、定期的に地球に帰ってくるように言われた。それから、サトシとマイとセシリアの結婚式には、老夫婦も参加することがなし崩し的に決まった
結局、ユウキたちは約束の10日を過ぎても施設に寝泊まりしていた。すでに、予定を5日ほど過ぎている。
ユウキたちが住んでいた部屋だけではなく、空き部屋も多く、他の国に行っていた者たちが集まっても部屋の数が足りなくなることはなかった。
この事実に、老夫婦も喜んだのだが、それ以上に施設に居た年少組が喜んだ。
指先から火や水を出す生活魔法のスキルを使って喜ばせた。物が消えて別の場所から出てくるような手品のように見せるスキルを使った。これが、年少組に思っていた以上に喜ばれた。実際には、手品ではなくて本当の魔法なのだが、手品のように少しだけ胡散臭い感じでやると、本当に手品のように見える。
サトシが使える聖剣の出し入れも、年少組には受けが良かった。それがサトシには嬉しかった。調子に乗って、聖剣を呑み込むように格納した時には、年少組がドン引きして、それからはサトシに手品を強請る子どもが現れなくなった。
5日の時間が必要になったのは、ユウキたちの都合も有ったのだが、老夫婦の知り合いをたどって、週刊誌の記者につなげてもらった。
その記者が言ってきた日付が、5日後の日付だったのだ。
「父さん。母さん。ありがとう。行ってくる」
「あぁ行って来い。困ったら来なさい」
「わかった。それじゃ!」
『お世話になりました』
24名が揃って、老夫婦に頭を下げる。
老夫婦は、一人ずつ名前を呼びながら抱きしめていく・・・。
そして、抱きしめながら、”これで、自分の子供だと、迷ったら頼りなさい”と一人ひとりに声をかけていく・・・。