帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~


「ふぅ・・・」

 ユウキは、前回と同じ浜石岳のキャンプ場に転移した。

 周りを見回すと、全員が揃っている。

(魔力は大丈夫だな。すぐの発動は無理だけど、ポーションを飲めば回復できる量だ)

「ユウキ!大丈夫?」

「マイ?すごく、可愛くなって・・・」

「ユウキには言われたくない!それよりも、魔力は大丈夫?14人、全員はきつかった?」

「大丈夫だ。魔力は3/5程度消費したから、全員は無理だな。14人が限界だと思う」

「そう・・・。どのくらいで回復しそう?」

「予想通り、1時間ってところだな」

「え?」

 よこから、テレーザが割り込んでくる。

「ユウキの魔力って、大台を越えていたよね?」

「あぁ100万を越えている」

「ということは、60万も使ったの?」

「そうだな」

「それが一時間?”魔の森”でも、8時間程度は必要だよね?」

「ん。あぁ俺は、魔力の変換が早いようで、”魔の森”では3-4時間だと思うぞ?」

「それでも、地球は3-4倍ってことにならないか?それとも、この場所はパワースポットなの?富士山(ふりやま)は古くから日本人のパワースポットだと聞いたぞ?」

「富士山に関しては、そうだけど、ここは富士山とは違う。龍脈が通っているかもしれないけど、それこそ調べて検証をしても、わからない。多分、ここは普通のキャンプ場だと思うぞ」

「そう・・・。サトシには、聞いても無駄だろうけど、マイ?」

「知らないわよ。そもそも、龍脈かどうかなら、私じゃなくて、ニコレッタかレオンの方が得意でしょ?」

 ユウキとマイとテレーザが二人を見るが、二人とも首を横に振る。

「ユウキ。龍脈の下では無いが、龍脈に近い感じはする。近くを通っているような感じだ」

「え?あっ・・・。ユウキ!久能山東照宮と富士山と日光東照宮!」

 マイは、遠足で行った久能山東照宮に向かうロープウェイの中で聞く話を思い出して、ニコレッタとレオンに話をする。

「徳川将軍が、龍脈を知っていたかわからないけど、富士山には”なに”かが、あるのだろう」

「あぁ全部が終わったら、富士山の周辺を調べよう。それにしても・・・。サトシ、お前・・・」

 皆の視線が、サトシに集中する。

「あ?」

「サトシ・・・。マイの話を聞いていたのか?」

「何を?」

自動(オート)調整(アジャスト)機能が付いた服を着ていくように言われただろう?」

「あ・・・」

 サトシは、連れて帰ることを考えていて、マイの話をすっかり、完全に、忘れていた。そして、いつもの服装で来てしまって、体が縮んだ。結果、ズボンはずれ落ちて、上着が大きかったために下着姿にはならなかったが、手で抑えていなければパンツもずれ落ちてくる。

「しょうがないわね」

 マイは、少しだけ嬉しそうな表情を見せる。

(久しぶりに見る表情だ)

 ユウキは、マイの表情が、昔からサトシの世話を焼くときの表情だと知っている。召喚される前から、マイはサトシのことが好きだった。

 近くにあるトイレまでサトシを連れて行くマイを皆が”生暖かい目線”で見送る。どうせ、マイのことだから、サトシの服装を見て、自動調整がかかっていないことくらいは見抜いていたいだろう。マイのアイテムボックスの中身は、仲間内でも不思議の宝庫と言われている。サトシに関係する物が次から次へと出てくる。サトシの中学時代に着ていた服くらいなら入っていても不思議ではない。もしかしたら、召喚された時の服が入っているかもしれない。
 ”乙女の秘密”と言っているが、そんな言葉で片付けられない。マイのアイテムボックスの中身を知っているのは、セシリアとヒナだけだ。それ以外の者には、教えられていない。

 マイとサトシを見送った一行は、ユウキを見る。

「どうした?」

「どうしたではない。この場所は、日本なのだろう?」

「そうだな。日本の静岡県だ」

「ユウキ。時々、サトシと同じで、ポンコツになるよな?」

「ん?あぁそうか、俺の魔力が溜まるまでの暇潰しか?」

「簡単に言えばそうだな」

「でも、夕方になっているから・・・。ここには、誰も来ないとは思うけど・・・。町には行けないな。俺たちの速度で、5分ほど降りれば、自販機はあるけど、種類は少ないぞ」

「おぉ!日本の自販機!」

「あっ・・・。ロミル。悪い。期待しているような物じゃないぞ?」

「え?」

 フィファーナに居る時にも、日本の変態的な自動販売機の話になったが、ユウキもサトシもマイもレイヤもヒナも、標準な物しか知らなかった。都会(東京)に行けばあるかもしれないが、田舎育ちの5人にはわからなかった。他の、勇者から聞いた話として、ロミルがユウキに聞いて判明したことだ。

「でも、ユウキ!お金を入れれば、夜中でも商品が出てくるのだろう?偽物じゃなくて?冷たい飲み物は、冷たくて、温かい飲み物は、温かくなっているのだろう?」

「あぁそうだな」

 キラキラした目で、ロミルはユウキに近づいてきた。ロミルのイェデアを見るが、”やれやれ”という雰囲気を出すだけだ。

「わかった。わかった。皆で行くのは、無理だぞ?目立ってしまうからな」

「ユウキ。俺たちは、ここで、サトシとマイを待ちながら、スキルの検証をしている」

 オリビアが、ロミルを見ながらユウキに提案をする。ロミルとイェデア以外にもユウキに付いていきたいと思っていたが、サトシとマイが心配なのも本当だ。皆も、スキルが実際に使えるのか気になっている。

「おぉ。転移だけは注意してくれよ。どんな影響が出るかわからないからな」

「わかった」

「ロミル。イェデア。どうする?マイから預かったのは、500円くらいだから、自販機でジュースくらいなら買えるぞ?」

「買うのは、今度でいい。俺は、日本の自販機を見たい!」

「わかった。それじゃ、行くか?そうだ、イェデアは、認識阻害が出来たよな?」

「できるよ?使う?」

「頼む。スキルを持たない人間にも、スキルが通用するかわからないけど・・・」

「わかった」

 ユウキとロミルとイェデアは、認識阻害を使った状態で、移動を開始した。
 スキルが、通用しているのか判断は出来なかったが、機械には通用しないことがわかった。自販機の前に移動した3人だったが、自販機は、明るくなった。誰かが近くづいた時の反応だ。

「ユウキ。俺たちに反応したのだよな?」

「そうだな」

「もしかしたら、認識阻害では機械は”騙せない”かもな」

「そうだな。そうなると、監視カメラもダメかもしれないな」

「うーん。でも、ユウキ。スマホのカメラは認識阻害では騙せたよ?」

「うーん。地球に居る時には、ダメなのかもしれないな」

 人にスキルが通用するかどかは、後日になるが、自販機はごまかせなかった。

 ユウキたちは、皆がスキルを検証している場所に戻った。

 スキルの状況は、マイがまとめていた。
 攻撃性のスキルは、サトシが的になって確認していた。聖剣使いの無駄使いだが、サトシが的になるのが、周りの影響を抑える方法なので、しょうがない。

「それで?」

「うん。超級とかは確かめていないけど、攻撃性のスキルは使える。攻撃力も、サトシが言うには、フィファーナよりも強くなっている」

「どのくらい?」

「サトシの言い方では、フィファーナでは”ズバン!”が、地球だと”ズドーン”になるらしい」

「マイ。翻訳を頼む」

「私にもわからないわよ。ディドが言うには、スキルの効率が2-3割上がっているらしいわよ」

「2-3割ってかなりだよな」

「そうね。それで、魔力の吸収なのでけど・・・。ユウキが言っていた通り、2-3割だけど、効率よくなっているわね」

「そうか、地球の方が、効率がいいのは、わかったけど・・・。理由がわからないのは気持ちが悪いな・・・。でも、これからのことを考えると、悪い事ではないな」

「えぇそうだね。でも、この浜石岳という場所だからという可能性は残るけどね」

「それは、帰還組が調べるよ。助かったよ」

「いいえ。それよりも、どう?」

「そうだな。今の感じだと、時空転移は発動するけど、余裕を持って、あと10分程度は欲しいかな」

「そう・・・。ユウキ。私・・・」

「いいよ。仏舎利塔だろう?行ってこいよ。サトシは、俺が見ているよ」

「ありがとう」

「ユウキ?マイは?」

「・・・。あぁそうか、サトシは、知らないのだったな。すぐに戻ってくるだろうから、マイに聞けよ。俺からは、それしか言えない」

「・・・。わかった・・・」

 サトシは、口では解ったと言っているが、納得していないのは表情を見れば解る。

「はぁ・・・。あとで、マイに聞けよ」

「あぁ」

「マイが、俺たちとは違うのは理解しているよな?」

「あぁ」

 サトシもユウキも片親だったが、サトシは親が病死して施設に入った。ユウキは、親が事故死して施設に入った。
 マイは、両親が揃って事件に巻き込まれる形で亡くなった。当時、マイが住んでいた家の近くにある一家に預けられることが多かった。その一家も事件に巻き込まれて、一人を残して亡くなってしまっている。一緒に遊んだことがある、年上の女の子が行方不明のままだったが、遺体で見つかったのが、浜石岳の山頂にある仏舎利塔の近くなのだ。

「そうか・・・」

「サトシ!」

「俺も、挨拶を・・・。ダメか?」

「時期が来れば、マイが誘ってくれるだろう。それまで待て!まだ、マイの中で消化出来ていないのだろう。いいか、サトシ。素直なのはお前の美点だけど、相手にそれをぶつけるな」

「・・・。わかった」

 ユウキは、サトシにマイの話をするのは初めてだが、サトシの性格に対する注意をするのは初めてではない。
 サトシは、口では”わかった”と言っているが、どこか釈然としていない。特に、今回のように”悪いことではない”場合にもユウキに止められる。ユウキとサトシは、ほぼ同時に施設に引き取られた。サトシは、親類も縁者も居ないと判断された。ユウキは、縁者は居るらしいのだが、養育を拒否された状況だ。詳しい話は、二人は知らない。しかし、サトシもユウキも、これで良かったと思っている。ユウキは、母親を知っている。サトシは、父親を知っている。

「ユウキ!サトシ!」

「ディド。どうした?」

「フェリアのスキルの発動だけど、見てもらっていいか?」

「わかった」

 サトシは、自分も呼ばれているが、ユウキが先に答えてしまったので、後からついていく形になった。

 ディドとフェリアは、後方支援が得意な者だ。

「どうした?」

「あっユウキ!スキルの発動は大丈夫だけど、効果が異常なの!」

「異常?」

「ユウキ。私のスキルは覚えている?」

「あぁ魔物や動物や昆虫を一時的に使役状態にするのだよな?」

「うん。テイマーと違って、使役状態を維持出来ないけど、数は無制限にできる」

「あぁ使役状態の維持に魔力を使うのだよな?それで?何が、異常だと思ったのだ?」

「見てもらったほうが早いよ」

 フェリアの足元には、数百匹のアリが固まっていた。

「あっフェリアは、全部のアリを使役状態にしたのか?確かにすごいな」

「違うの・・・。ユウキ。私は、一匹を使役状態にしただけなの・・・」

「え?ディド。どういうことだ?」

 ディドは、鑑定や探索系のスキルを複数所持している。

「俺が見ても、たしかに全部が使役状態になっている。フェリアと魔力の繋がりがある」

 ユウキは、ディドから視線をフェリアに戻した。

「フェリア。魔力はどうだ?1匹分か?」

「それがよくわからないの・・・。最初に使役状態にしたときには、”アリ”を使役したことは無いけど、フィファーナの昆虫よりは多くの魔力が必要だったけど、使役状態になってからは・・・」

「減っていないのか?」

「そう、回復の方が早いみたいで・・・。でも、たしかに、最初は一気に持っていかれたよ?」

「フェリア。全部が使役状態なことは、間違いではないのか?何か、指示を出してみてくれ」

「わかった」

 フェリアが、ユウキに背中を見せる状態で、しゃがんだ。必要がない行為なのだが、フェリアは”使役状態”にある者たちを見ながら実行したほうが、指示が伝わりやすいと考えている。座って、固まっている”アリ”に隊列を作って、10メートルほど離れろと指示を出す。言葉に出す必要は無いのだが、ユウキや周りで見ている仲間たちに、解るようにフェリアは指示を声に出した。

 ”アリ”たちは、フェリアの指示に従って、団子状態から10列(フェリアのイメージ)の隊列になって10メートル(フェリア的な距離)の場所で停まった。

「すごいな。ディド!」

「魔力は、1%未満だが減ってから、すぐに回復した」

「魔力が回復するのは、他のスキルでも同じことが発生しているよな?」

 状況を見ていた他の者も、ユウキの話にうなずいている。スキルを使うときに、威力が増すのは、確認されている。消費魔力は、スキルで違うことも解っている。魔力の回復も、地球のほうが早いのも確認された事象だ。

「あぁユウキの報告通りだ。皆の感覚だけで、検証は出来ていないが、間違いはないだろう」

「そうか・・・。そうなると、使役状態なのは、状況を見れば納得できる。問題は、数だな」

「フェリア。個別、指示、出せる?」

 ディドの後ろで話を聞いていた、テレーザが割り込んできた。皆の視線が集中すると、ディドの後ろにまた隠れてしまった。

「そうか!テレーザ。ありがとう!」

 ユウキは、テレーザが気になっている内容が、この現象の解明に役立つと考えた。

「フェリア。”アリ”に個別で、指示を出せるか?」

「できそうだよ?」

「使役は、意思も関係するよな?」

「うん。無理な指示には従わないよ?」

「それなら、”アリ”に、最初に使役状態になった”個体”だけに指示を出せるか?」

「うーん。やってみる」

 今度は、声に出さないで、指示を出す。
 しかし、何度実行しても、”個体”への指示は成功しなかった。

「ユウキ。ダメみたい」

「そうか・・・。そうなると、”アリ”だけに適用される状況なのかわからないけど、全体で使役しているのだろう」

 検証は、ここまでにした。
 フィファーナの昆虫と地球の昆虫の違いだと考えることにした。

 スキルの検証を続けようか、ユウキたちが悩んでいると、仏舎利塔に行っていた、マイが戻ってきた。

「マイ!」

 気がついて、サトシがマイに駆け寄る。

「ゴメン。みんな」

 マイは、皆に頭を下げるが、皆は気にするなとマイの行動を容認する。皆がそれぞれ事情を抱えている。

「それで、スキルの検証は?」

「一通りは、終わったと思う。あとは、まとめる作業だけど、それは、帰ってからでいいだろう?」

「そうね。それに、追加で検証が必要になったら、ユウキに連れてきてもらえば、いいよね?」

「そうだな。将軍の話や、状況的に俺はフィファーナと地球を往復する必要がありそうだからな」

「うん。うん。サトシの世話もあるよ?」

「それは、マイとセシリアに任せる」

 マイとユウキのやり取りは、いつもと変わらない。
 二人の話を聞いて、笑い声が聞こえる。

「さて、俺の魔力も溜まったし、帰るか?」

 ユウキは、周りを見回して確認する。
 ”否”と考えている者は一人も居ない。

 ユウキはスキルを発動する。
 こちらで流れた時間と、フィファーナで流れた時間を同一にする。発動時のイメージに追加したのだが、うまく作用するか不明だったが、スキルはしっかりと発動した。

 魔法陣が浮かび上がった。帰還組が、地球を懐かしむよりも、フィファーナに帰りたいと思っているのか、魔法陣に集まる。

「いくぞ!」

 ユウキの掛け声に反応する。

 帰還組は、地球に2時間10分ほど滞在して、フィファーナに戻った。
 姿は、ユウキと同じように、7年前の姿になっていた。

「おかえりなさい。ユウキ様。皆さま」

 魔法陣の光が消えて、周りがわかったユウキたちの前には、笑顔のセシリアが居た。セシリアは、ユウキたちが”戻ってくる”のは疑っていなかった。だが、やはり”心配”になってしまう気持ちを抑えられなかった。2時間という時間が近づいてから、庭が見える場所で待機していた。ユウキたちが帰ってきて、最初に出迎えようと思っていたからだ。

 セシリアの声と笑顔を見て、ユウキたちも”フィファーナ”が帰るべき場所だと認識した。

 残留組が地球で行った検証結果を聞いて、帰還組もスキルの検証を行ってから、今後の作戦を考えることになった。
 特に、アリスのスキルは、フィファーナの防衛に関わってくる部分だ。

 まずは、アリスとエリクをだけを連れて、地球に行くことになった。
 3人だけなら、すぐに戻ってこられると考えたからだ。残留組で、港に転移できる者が、アリスの眷属を見守る。

 アリスが、地球に戻ったことで、解除されないか調べるためだ。

「アリス。エリク。準備はいいか?」

 二人は、自動調整が付与された服に着替えた。サトシの話を聞いて、必須だと考えたのだ。

「それじゃ、頼むな」「よろしくね!」

「任せろ!”いざ”となったら、俺が止める」

「サトシ!僕の可愛い子たちを殺さないでよ!マイ。お願いね」

「解っているよ。アリス。先に、命令を出しておいてくれると嬉しいかな」

「どんな命令?」

「沖にある島に移動させておいて、そうしたら、港への被害は軽減できるでしょ?」

「そうだね・・・。出した。指示に従って、移動を開始したよ。転移の許可も出したから、すぐに移動できると思う」

「わかった。ありがとう」

「ユウキ。もう大丈夫!」

 マイと話をしていた、アリスがエリクとユウキの所に戻ってきた。

「すぐに戻ってくる。待っていてくれ」

 ユウキが、スキルを発動する。
 14人ではなく、2人だけなので、魔力の消費は少ないと考えていた。

 魔法陣の光が収まったフィファーナは緊張に包まれていた。

「アリスの眷属は!」

 サトシの言葉で、確認が行われたが、港に向かう者。沖の小島に向かう者が一斉に行動を開始した。

『確認してくる!』

 ユウキがいたら、解っていたのなら、”先に動けよ”とツッコミを入れる所だが、皆が動き出したのを見て、サトシは安堵の表情を浮かべた。セシリアは、そんなサトシを見ているだけだ。注意しなくても、周りがサポートを行えばよいと考えている。

 ユウキは、すぐに戻ってくると言っていたが、すぐには戻ってこない。
 魔法陣の光が消えた場所を、サトシとセシリアは見つめていた。

 1分後に、確認に行っていた皆が戻ってきた。

「港は、なんの問題もなかった。フェンリルが居たけど、おとなしい状態で、紋は消えていなかった。俺のことも覚えていた」

「小島も問題はなかった」

 問題はないという報告を聞いて、セシリアがホッとした表情を浮かべた。
 テイムのスキルは、テイムした者が死んだ場合に、紋が消えて眷属状態が解消される。

 ”死”は解るのだが、”転移”それも地球に移動してしまって、魔力的な繋がりが維持できるのかわからなかった。ユウキの検証や、残留組の検証でも、”念話”のスキルが繋がらないのは確認されている。
 ユウキたちは、”念話”が繋がらない理由を、魔力の繋がりが途絶えたからだと考えたのだ。

 テイムも、魔力的な繋がりを基礎として、眷属と繋がりを持つ。
 今回の検証で、もっとも大事な検証だと言っても良かった。そして、検証の結果によっては、根本部分の練り直しが必要になってしまう所だった。

 報告が集まった時に、庭に魔法陣が現れた。
 ユウキたちが帰ってきたのだ。

「マイ!」

 魔法陣の光が消えて、アリスがマイに駆け寄った。サトシではなく、マイがまとめていると思ったからだ。

「大丈夫だよ。アリスの友達は、皆、いい子にしていたわよ」

「よかった・・・」

「それで、アリス。地球でも、繋がりは保てたの?」

「うん。でも、いつも見たいに、意思が感じられるとは違って、繋がりを認識できるって感じだった。でも・・・」

「でも?」

「なんか、途中で強く感じられる時が有ったの・・・。だから、ユウキとエリクに言って、帰ってくるのを少しだけ待ってもらった」

「それで?」

「うん。慌てている感じだけが解った。けど、すぐに落ち着いて、繋がりが強くなった」

「そう・・・。ユウキ?」

 ユウキは、アリスが繋がりを維持出来た理由を考えていたのだが、繋がりを維持しているが、指示が投げられなかった。アリスに状況を聞きながら、地球で試してみたが、状況は改善しなかったが、帰ろうと思った瞬間に繋がりが強くなったと報告があった。
 理由は不明なのだが、アリスの眷属の下に、仲間たちが駆けつけたことが原因だと考えられる。暴走しなかったことで、”よかった”と手放しで喜べる状況ではない。

「マイ。眷属たちの様子は?」

「何も?いつもどおりだったらしいよ?」

「そうか、マイ。悪いけど、アリスを連れて、眷属を回ってもらえるか?」

「わかった。アリス。行こう!」

 マイに連れられて、アリスが転移していった。

「ユウキ?」

「あぁすまん。エリク。エリクに聞きたいことがあった」

「なんだ?」

 横から見ているセシリアは少しだけ不謹慎にも笑ってしまいそうになるのをこらえていた。
 7-8歳ほど年上だった者たちが、大人だった時の口調で”子供の姿”になった今でも難しい話や、真面目な話をしている。不思議な感覚になっている。今までは、大人たちが難しい顔をして話し込んでいた。そのために、輪に入るのを躊躇っていた。勇者の称号を持っていなくても、大人たちの会話に幼い自分が入っていいのかわからなかった。サトシやマイだけなく、ユウキも気にしないから、”意見が有るのなら話して欲しい”と言ってくれた。戸惑いながらも、会議に参加していた。
 しかし、今のユウキたちは自分と同世代の姿をしている。真面目な表情で、前と同じような話しをしていても、どこか背伸びをしている雰囲気が漂ってくる。

「どうした?セシリア?何かあるのか?」

「え?なんでもありません。ユウキ様。実際に、旅立つのは?」

「そうだな。予定と作戦を少しだけ変更したい」

「え?」

向こう(地球)こちら(フィファーナ)でスキルに違いが有りそうで、しっかりと検証をした方が良さそうだ。それに、一度、皆で戻った方が、インパクトが大きそうだ」

「・・・」

「そうなると・・・。あぁ心配しなくていい。帰還組は、長くても10日くらいだろう」

「わかりました。連絡が出来ないのが辛いですね」

「そうだな。今後のこともあるから、連絡の方法は何か考えたいのも、皆で地球に行く理由でもある」

「え?方法がありそうなのですか?」

「わからないけど、アリスの眷属が魔力の繋がりが切れなかったから、なにか方法があると思っている」

「そうなのですか・・・。出来たら、すごく嬉しいですね」

「そうだな。俺たちも安心できる。今度は、俺が毎日・・・。帰ってこようと思っている」

「ユウキ様の負担では?」

「大丈夫だと思う。それに、皆も、こちらの情報が欲しいと言い出すだろう」

「そうだと・・・。嬉しいです」

「セシリア。俺たちは、レナートを故郷だと思っている。それに、父や母になる人たちも居る。それこそ、大切な人も居るのだぞ?」

「え?あっ・・・。ありがとうございます」

「よし。セシリア。サトシが騒ぎ出す前に戻るぞ。これからのことを考える必要がある」

「はい!ユウキ様」

 先を歩いているユウキの後ろを、セシリアは背中を見ながらついていく、初めてユウキたちに会った時には、セシリアはユウキたちが怖かった。
 漠然とした恐怖を感じていた。流れ着いたユウキたちを、国王や将軍は歓迎した。しかし、一部の連合国に買収されていた貴族たちが、ユウキたちを売って連合国に取り入ろうとした。そのために、ユウキたちは気の休まる時間がなかった。

 ”ここ”でも同じなのかと、ユウキたちは、半ば諦めていた。
 しかし、国王や将軍や国王派の貴族たちが、ユウキたちを守る動きをした。ユウキたちは、守られることに慣れていなかった。しかし、守られていることが解ると、今度は国王や将軍に協力する形で、連合国派閥の貴族を駆逐し始めた。
 穏やかな空気が流れるようになったレナート王国で、初めてセシリアはユウキたちが同じ人間だと認識した。友を無くして、涙を流す。怪我を追った仲間を治すために、情報を集める。家族を失った民衆と共に、涙を流す。
 そして、沈んだ皆を鼓舞するサトシに惹かれた。サトシが、セシリアに最初に優しい声をかけたからという単純な理由だったのだが、王女として育ったセシリアには、自分から見て大人のサトシが、自分に向って”タメ口”で話しかけてくれたのは、惚れるには十分な理由だった。

 ユウキたちは、レナート王国の各地を回る者と、ユウキと一緒に地球に行って、スキルの検証を行う者に分かれた。

 皆も、スキルの検証には前向きだ。地球とレナートで連絡が取れる可能性が出てきたからだ。
 特に、残留組が積極的だ。偶然なのか、スキルの構成が残留組と帰還組に分散している。ユウキが帰還組なのを、残留組が気にしている(主にサトシ対策として・・・)。セシリアとマイからも、ユウキとの連絡方法の確立だけはお願いされていた。

 地球とフィファーナとのスキルを使った連絡は出来なかった。
 アリスが認識できる魔力の繋がりも、”繋がっている”だけを認識できるだけど、意思を伝えたり、意思を受け取ったり、連絡は出来なかった。

「ユウキ。どうする?」

「あ?あぁそうだな。サトシも何か考えてくれよ」

「俺が?そういうのを苦手なのは知っているだろう?」

「知っているが、サトシ。お前は、セシリアと結婚して、”国王”になる。苦手だから、”考えない”では、誰もお前に相談しなくなるぞ?」

「・・・。ユウキ?」

「俺か?俺は、地球での用事が終わったら、戻ってくる。でも、その後は、まだ決めていない」

「え?」

「この世界を回ってもいいだろうな。行っていない場所も多いからな」

「・・・」

「今は、無理でもいい。でも、でもな!サトシ。諦めるな。間違っても、大丈夫だ。マイも居る。セシリアも居る。今なら、陛下もボケるまでには時間がある。今のうちに学んでおけ」

「あぁ・・・。わかった」

 サトシが考え始めたが、ユウキは、サトシが何かを言い出す前に、マイを手招きしてサトシを頼んだ。

「セシリア」

「はい。ユウキ様」

「どうやら、念話を使った連絡は難しそうだ。即時の連絡は無理だと考えてくれ」

「はい。残念です」

 セシリアは、少しだけだが検証がうまく行って、何かしらの方法で、”念話”が繋がることを期待していた。

「そこで、取り決めをしておきたい」

「取り決め?」

「あぁ地球も、フィファーナと同じで、7日で一括になっている。フィファーナで言う。光の日が、日曜日と呼ばれている」

「はい?」

「その日曜日の、午前中・・・。レナートだと、2つ目の鐘が鳴った、後に魔法陣の中に有るものを受け取る。俺たち(帰還組)から、何か有るときにも、同じように転移する」

「よろしいのですか?」

「あぁ今の所、それしか方法が無いからな。帰還組同士なら、念話が使えるし、転移もできる。連絡は取れる。レナート側からの緊急対応が無理なのは、諦めてくれ、7日間隔で連絡が取れるようにはする。そのときに、緊急性が有るようなら、俺を呼び出してくれ」

「わかりました。ありがとうございます。十分です」

 セシリアとしは、十分な間隔だ。サトシたち(残留組)が居る状態で、7日間も持ちこたえられない状況は考えにくい。それに、将軍たちも鍛錬を繰り返している。相手が、魔王や勇者たちでなければ負けない。

 ユウキたちは、陛下や将軍と詳細な取り決めを行った。結果、ユウキの提案をブラッシュアップしたか形で落ち着いた。

 そして、検証の結果、面白いことがいくつか判明した。セシリアが抱きかかえている”猫”だ。将軍が連れているのは、”犬”だ。

「ユウキ様。猫という動物は、地球は沢山いるのですか?」

「あぁ犬も猫も・・・」

 フィファーナには、ファンタジー世界では定番の獣人族は存在しない。亜人族として、魔物や動物の因子を取り込んだ種族は存在するが、ファンタジー世界でよく居るような猫人族や犬人族は存在しない。

 検証の過程で、フィファーナの魔物を地球に連れて行った。結果は、地球でも生きられた。それ以上の検証はしていない。
 地球から、野良猫を連れて帰ってきたら、魔物化してしまった。同様に、野良犬も魔物化したが、元々の性質が穏やかなのか、テイマーのスキルを持っていない者でも、テイムしたのと同じような状況になった。
 それで、猫はセシリアが、犬は将軍がテイム状態にして、飼うことになった。マイやサトシの残留組もペット枠として猫や犬だけではなく、他の動物を地球から連れてくることを望んだ。すぐには出来ないが、確保して送ることに決まった。
 魔物化の影響がはっきりとしない為に、大量に確保して置くのは”止めておこう”と決められた。地球での基盤が出来たら、ユウキが日本の保護猫や保護犬をレナートに送る道筋を作るつもりで居る。殺処分されるのなら、レナートで第二の人生を歩ませたいと考えているのだ。

「ユウキ。それで、”いつ”旅立つ?」

「予定では、3日後です」

「そうか、送別会は開かないぞ?」

「長めの旅行に行くだけです。帰ってきます。ここは、俺たちの”家”です」

「ユウキ様。残留される人たちも、一度、行かれるのですよね?」

「はい。向こうでの、デモンストレーションが終わったら、帰ってきます」

「わかりました。予定では、1ヶ月くらいと聞きましたが?」

「そうですね。10日程度は、各地を転々とする予定です。その後、各国で、異世界の話をするつもりです」

「わかりました」

「その間、ユウキ様が、毎日のように戻られるのですよね?」

「そのつもりです。向こうの夜の時間に、こちらに来ます。どの程度の時間かわかりませんが、こちらには10分か15分程度の滞在になると考えてください」

「十分です」

「ユウキ!」

「はい。陛下?」

「・・・。いや、なんでもない。気をつけて行って来い」

「もちろんです。怪我や病気の時には、レナートに戻ってきます」

「ん?そうなのか?」

「はい。皆と話したのですが、俺たちが持つ、スキルの中で問題になりそうなのが、アイテムボックスとヒール系と転移のスキルです」

「そう言っていたな。確かに、転移は珍しいが、防ぐ方法が・・・。そうか、お主たちの故郷にはスキルがなかったのだ」

「はい。防ぐ方法を提供しても、俺たちが疑われるのは間違いありません」

「そうだな。アイテムボックスやヒール系のスキルも代替えが無いのか?」

「スキルの代替えができるのは、念話くらいです。他は、ほぼ無いと考えてください」

「そうか・・・」

 ユウキたちが心配したスキルは、それだけではないが、アイテムボックスは、”袋の内容量が大きくなる”と偽装することにして、ヒール系は”隠匿”することになった。転移も、”決められた場所”以外には行けないと偽装することにした。
 フィファーナにつれていくことも可能だが、300人以上の者たちを、召喚して、生き残ったのは”29名”だと宣言する。
 事実としては間違っているのだが、転移の成功する可能性が10%で、こちらに帰ってきて、生き残れるとも限らないと錯覚させることに決まった。

 29名で、地球に帰るが、その後で14名はレナート王国に帰る。
 この”帰る”行為を、地球の(権力者)たちに、”死んだ”と錯覚させるのだ。

 これらの道筋が考えられたのだが、権力者たちの出方が正直な所、わからない。ユウキたちが、地球に居た時間よりも、フィファーナで過ごした時間は濃密過ぎて、フィファーナの権力者の考えに染まりすぎていた。

「はい。わからないことが多いので、臨機応変と言えば聞こえはいいのですが・・・」

「ユウキたちなら、大丈夫だろう。儂たちも相談に乗ろう。権力者の考えは、儂たちの方が理解できる可能性がある」

「ありがとうございます。少しだけ不安ですが、宰相や王妃様もいらっしゃいますし、頼らせていただきます」

 ユウキたちは、袋から物を取り出す訓練やスキルをわかりにくくする訓練をしながら、出発に備えた。

 そして、今日の昼にユウキたち29名は、地球に帰還する。

 一度に転移すると、ユウキに負担がかかるので、効率がいい3名での転移を14回行うことになっている。

 最初は、ヒナとレイヤとユウキだ。そして・・・。

「セシリア。行ってくる」

「サトシ様。行ってらっしゃい。レナートは大丈夫です。ご安心ください」

「セシリア。行ってくるね。お土産を楽しみにしていてね!」

「はい。マイ様。お話に聞いている、甘味を楽しみにしています!それから、この()のおやつもお願いします」

「わかっている。将軍の()のおもちゃやペット用品も買ってくるよ!」

「はい!お願いします」

「いくぞ!」

 ユウキが、二人に声をかける。

「ユウキ。少しだけ待ってくれ」

「どうした、何か忘れ物か?」

 サトシが、魔法陣の外側に居るセシリアに近づいて、抱きしめた。耳元で、何かを呟いている。サトシが決めたことではなく、マイがして欲しいと思ったことを、サトシにやらせた結果だが、セシリアは喜んでいるので、間違ってはいない。

「ユウキ。ありがとう。陛下。セシリア。行ってくる!」

 ユウキがスキルを発動する。
 魔法陣の光が激しく明滅しだす。外側で、セシリアと国王が何やら言っているが、ユウキたちには聞こえない。

 光が消えるまで、セシリアと国王は、ユウキたちが立っていた場所を見つめていた。

 最後になったが、ユウキとサトシとマイが浜石岳のいつもの場所に転移してきた。

 魔法陣の周りには、先に地球に来ていた勇者たちが待っていた。

 勇者たちは、日本で10日ほど過ごすことにしている。
 世界中で、()()が消えたという報道は、されていない。消えたのが、孤児が中心のために、消えてから3ヶ月程度の時間が経過していても、騒いでいる国は少ない。

「さて、ひとまず10日後に、集まろう。念話はオープンにしておくけど、”時差”を考えてくれよ!」

 ユウキの宣言に、皆がうなずく。
 これから、辛い現実を告げなければならない。その事実は変わらない。しかし、自分たちで決めたことだ。フィファーナで、自分たち以外が死んだと告げなければならない。実際には、何名かの勇者は生きている。しかし、ユウキたちの中では、仲間以外の勇者たちは『”魔物”になってしまった』と考えている。人の心が死んでしまっている。ユウキたちも、敵を殺している。仲間を犯した奴を、感情に任せて殺したこともある。自分たちの手が綺麗だとは思っていない。

 だからこそ、”奴ら”とは違うと思っている。
 ”奴ら”は自らの快楽を優先した。性欲を優先した。捕虜とした人を、犯して殺した。殺したことを、犯したことを、奪ったことを、自慢した。
 ”奴ら”は、獣にも劣る。魔物と同じだ。

 ユウキは、フィファーナのスキルを考えていた。勇者たちは強力なスキルを持つ。これは、召喚されたときに教えられたことだ。そして、勇者たちが持つスキルは、唯一(オンリーワン)の物だと言われている。実際に、29名が、別々のスキルを持っている。汎用スキルと呼ばれる物も存在している。魔法系のスキルや、鑑定やアイテムボックスや転移が、汎用スキルに分類されて、鍛錬や他のスキルを磨くことで得られる。
 人が死んだ場合に、スキルオーブが現れる。そのオーブにも複数の種類が存在している。勇者が持つスキルはオンリーワンで、スキルオーブになっても一回で砕けてしまう。オンリーワンではないスキルは、砕けない。”魔物の王”や直接の眷属も、オンリーワンのスキルを持っていた。今は、ユウキが持っている時空転移のスキルは、”魔物の王”に受け継がれるオンリーワンのスキルだ。似たようなスキルが無いとは思わないが、ユウキたち以外の勇者が使えるとは思えない。

「ユウキ!」

 エリクがユウキを呼び止める。

「エリクとアリス?ドイツには帰らないのか?」

「マザーはもう居ない。墓も無い。だから、アリスと俺は、時が来るまで、馴染みがある日本に居ようと思う」

「そうか、どこかに・・・。そうか、無いから俺に声をかけたのだな」

「さすがは、ユウキだな。サトシでは・・・。それで?」

「正直、俺にもわからない。父さんと母さんなら、二人を気持ちよく迎え入れてくれるとは思うけど・・・」

「大丈夫だ。ダメなら、そのときに考える」

「わかった。ひとまず、ついてきてくれ」

「助かる。アリス!」「うん。ユウキ。ありがと」

 ユウキたちは、すぐには施設には向かわない。
 自分たちが消えてからの日数を確認した。4ヶ月が経過しているのが解った。

「ユウキ。どうする?」

「もう少しだけ情報が欲しいな。それに、移動だけなら、それほど時間はかからないだろう?」

 田舎町だ。
 夜中に移動すれば、人に見られる可能性は低い。夜中に移動して、施設内に潜り込んで、朝になったら、姿を表せばいいと思っていた。

「それで、どうする?学校にでも忍び込むか?」

「辞めておこう。前に、認識阻害を行った状態でも、自販機には見つけられてしまったから、監視カメラには写ってしまうと考えたほうがいいだろう」

「そうか、地球ならではの技術に関しての検証は出来ていないよな」

「あぁ」

「ユウキ。弥生のことは」

「俺が話す。俺が話さなければ・・・」

「わかった」

 サトシは、自分ではうまく説明が出来ない。でも、マイやヒナには・・・。サトシは、ユウキに”甘えている”と自覚している。このままではダメだという気持ちも強い。

「夜になるまで、適当に時間を潰すか?」

「そうだな。レイヤ!ヒナ!どうする?学校に行くか?」

 サトシが言っているのは、自分たちが通っていた学校ではなく、廃校になった、レイヤとヒナが通うはずだった学校だ。

「あ!そうだな。あの学校なら、家にも近いから都合がいい」

「たまには、サトシも、”まし”な提案をするのね」

「そうだろう!って、ヒナ!」

 皆のテンションが少しだけ普段と違っている。
 久しぶりに帰ることへの緊張なのだろう。そして、自分たちだけが帰ってきてしまったことへの負い目もある。

「ヒナ!サトシも、いい加減にして、移動するぞ?」

「ユウキ。転移するのか?」

「いや、山沿いに移動しよう。転移して、学校に誰かが居たら目立ってしまう」

「そうだな」

 エリクの問いかけに、ユウキが明確な返答をする。
 それから、山道を廃校に向けて移動した。ユウキたちから見たら、獣道でもあれば十分な道として認識できる。身体能力を上げるスキルを発動しなくても、地球に居た時の10倍から20倍ていどの速度で移動できる。

「俺たちが、オリンピックに出たら、全部の金メダルを獲得できるな」

「どうかな・・・。技術が居るような競技もあるからな」

「確かに!サトシは、陸上だけだろうな」

「ハハハ。違いない」

 皆が走りながら軽口を叩きあっているが、走っている場所は獣道ですらない場所だ。木々の間を縫って走っている。時速で言えば、3-40キロは出ている。右に左に木々を避けながら、軽口を叩いているのだ。身体能力では、通常の4-50倍だろう。身体能力を上げるスキルを併用すれば、100倍以上にはなるだろう。
 技術を凌駕できる身体能力だと言える。

「オリンピックは無理だろう?ドーピングを・・・。疑われても困らないな」

「だろう。レイヤは、何か出るか?」

「出るなら、サッカーだな。中学3年生の”天才”現れるとか・・・。柄じゃないな」

「意外と似合いそうだけどな。ヒナもそう思うだろう?」

「うーん。無理。レイヤじゃない」

 ヒナが、サトシの妄想を一刀両断する。
 表舞台が似合うのは、やはりサトシだ。皆が同じ気持ちだ。

「一度は、スキルの有用性を示す意味で、デモンストレーションはするけど、それ以降は隠すからな」

「大丈夫だ。ユウキ!それに、見せるスキルの検証も終わっているし、新しく作ったスキルなら大丈夫だろう」

 仲間の一人が持っているスキルが、低級のスキルを生み出す能力だ。
 それを使って、”制限を付けた”スキルを生み出した。一般人の4-5倍程度に力が制限されてしまうスキルだ。それを使えば、”少しだけ”力が強くなった少年や少女となる。魔法に関しては、初級から中級程度だけにしておけば問題はないだろうと結論が出ている。
 本命は、信頼できる人にだけ明かすことにしている。ユウキたちは、施設を仕切っている老夫婦だ。
 ユウキたちに取っては、母親であり、父親だ。本当の両親のように思っている。

「ここか?」

「そうだ」

 山道を、1時間ていど走ってついたのは、学校と言われたら学校だと思える程度の場所だ。
 グラウンドもあるが、使っていないのか荒れている。車が走った痕が残されている。

「ここで、夜中になるまで時間を潰そう」

「ユウキ。夕飯は?」

「持ってきたものを食べようと思っている」

「それなら、河原に行かない?確か、グラウンドの先に、川が流れていわよね?」

「そうか?覚えてない」

「流れているぞ」

 レイヤは、しっかりと覚えていた。
 河原に移動して、焚き火を行うことにした。効果が無いかもしれないが、結界を張っておくことにした。

 時刻は、午前2時を過ぎている。

「さて・・・」

「行くのか?」

「あぁ俺が一人で様子を見てくる」

「・・・。ユウキ?」

「サトシ。頼む。向こうについたら、念話で知らせる」

「わかった」

 サトシは、ユウキについていくつもりで居たのだが、この場所を頼むと言われて、承諾してしまった。サトシが残ると決めた以上、他の者がユウキには付いていかない。ユウキなら、一人でも大丈夫だという安心感がある。サトシは、一人にすると何をしでかすかわからない怖さを持っている。

「行ってくる」

 ユウキが、身体強化のスキルを発動した。
 電柱の上を蹴るようにして、移動し始めた。午前2時で、いくら田舎だからといっても、誰にも見られないで移動するのは不可能だ。電柱の上を移動するのは、見られたときに”夢”だと思われる可能性にかけた結果だ。

 移動を開始してから10分くらいで、見慣れた町並みが出てきた。

(変わっていないな・・・。そうだか、まだ数ヶ月だったな。感覚では、7年前だけど・・・)

 ユウキは、道路に降りた。
 日本なら、この時間に子供が歩いていても、不思議には思われるけど、それだけだ。警察が来たら逃げればいいと、簡単に考えていた。実際、ユウキを呼び止めても、ユウキが走り去れば警官が追いつけるとは思えない。たとえ、白バイ隊の隊員だったとしても無理だろう。それこそ、ユウキを除く28名が連携しなければ難しいだろう。

 ユウキは、警邏を行っている警察を避けて、施設にたどり着いた。
 もともとこの時間なら、施設は静かになっている。それだけではない。施設の子供は、14人が住んでいたのだが、その中から6名が召喚されてしまったのだ。

(え?)

 ユウキは、自分たちが使っていた部屋の明かりが点いているのを見て驚いた。
 ユウキが使っていた部屋だけではなく、サトシとレイヤが使っていた部屋や、ヒナとマイと弥生が使っていた部屋の明かりもついた状態だ。

(なぜ?)

 ユウキは、明かりが点いているのはわからなかった。電気代もただではない。

 ユウキは、明かりが見える位置で立ち止まってしまっていた。
 頭を振って、建物の裏側にある庭に向かった。そこなら、誰にも見られることがない。それだけではなく、子どもたちが抜け出すのに使っている秘密の通路が存在している。

(ここなら・・・)

 ユウキは、久しぶりに見た庭に、安心してしまった。

「弥生・・・。帰ってきたぞ・・・」

 ユウキは、死んでしまった友の名前を呼んだ。

「!!」

 ユウキは、いきなり後ろから抱きしめられて、驚いて反応が遅れた。

「ユウキ!ユウキ!ユウキ!どこに行っていたの・・・。サトシは?レイヤは?マイは?弥生は?ヒナは?ユウキ。どこに・・・」

「母さん・・・。なぜ?」

「ユウキ。うん。怪我は無いようだな。立てるか?」

「父さん・・・。え?あっ。うん。大丈夫」

 ユウキは、自分のスキルに感じさせないで近づいてきた、母と父に驚いたが、それ以上に、この時間まで起きていたのにも驚いていた。

「父さん」

「ほら、お前も、ユウキが立てないぞ」

「だって、離したら・・・」

「母さん。大丈夫。俺は、ここに居る」

「ユウキ。お前・・・。お前たちに何があった?話を聞かせてくれるか?」

「・・・。父さん」

 ユウキは、自分たちが経験した内容を、話さないつもりで居た。だが、父と呼んでいる人の前に出ると、話を聞いて欲しいという気持ちが強くなってくる。

「ユウキ。本当に、ユウキなのよね?」

「・・・。母さん」

「夢じゃないわよね。本当に、ユウキなのよね」

 ユウキは、母の抱擁から逃れて、立ち上がった。
 それでも、老婦人()はユウキの手を握って離さないでいる。

「ユウキ。時間はあるのか?」

「大丈夫」

「どうした?なにか在ったのだろう?話せない内容なのか?」

 ユウキの前に立つ老紳士()は、数ヶ月見なかった息子が精神的な成長を遂げていると感じた。

「そうじゃないけど・・・。話しても、信じてもらえない・・・」

「ユウキ!子供の話を信じない親なんていない!」

 力強く握られた手から、ユウキは母の優しさを感じた。

「わかった。ちょっとまって欲しい」

「ユウキ?」

「母さん。俺は、ここに居る。でも、ここに居る必要がある」

「??」

「ほら、ユウキが、ここに居ると言っているのだし、儂たちは、ユウキが部屋に入ってくるのを待っていよう」

「ユウキ。本当に、どこにも」「母さん。20分だけ待って欲しい」

「ほら、お前も、ユウキたちを信じて待つって言ったのはお前だろう」

 母は、父に連れられて、施設に戻っていった。

”ユウキ?どうした?”

”父さんと母さんにバレた”

”え?ユウキが?”

”あぁ母さんにいきなり抱きしめられた”

”え?!スキルは?”

”使っていたが、少しだけ気が緩んでいたかもしれない。それで、悪いけど、エリクとアリスを連れて庭まで来てくれ”

”わかった。レイヤたちも一緒でいいよな?”

”あぁもちろん。弥生も連れてきてくれ”

”わかった”

 ユウキは、念話を切ってから、庭の一角に目をやる。
 スキルの影響なのか、夜でもしっかりと見えている。庭には、野菜が植えられている。ユウキたちが育てている物もある。それらが、しっかりと手入れされている。収穫ができる物も、残されている状態だ。

(俺たちのために・・・)

「ユウキ!」

 サトシたちは、全力で来たのだろう。ユウキが想像していたよりも早く到着した。

「ねぇユウキ。部屋の明かりが・・・」

「あぁ俺が来た時にも点いていた。もしかしたら、母さんか父さんが、俺たちが帰ってくるのを信じて、点けていてくれたのかもしれない」

「そうね」

「ユウキ?」

「どうした。エリク?」

「サトシに聞いたけど、ユウキたちの母親は、ユウキに気が付かれないで、ユウキに抱きついたのだよな?」

「あぁ」

「そんなことが可能なのか?」

「わからない。でも、俺が・・・。庭で、安心してしまったかもしれない」

「それで?」

「二人とも、検証は後にしよう」

 エリクとユウキが検証を始めそうな雰囲気だったのを、マイが元に戻す。
 マイは、今から弥生のことを話すのが辛いのだが、それ以上に母と父に会いたい気持ちにもなっている。

「そうだな。母さんを待たせると、後が怖そうだ」

 サトシが、考えていないで言った言葉だ。なんの計算もしていない。素直に”そう”思って、話した言葉だったが、マイもヒナも弥生のことをどうやって話せばいいのかで頭が一杯になっていた。ユウキは、すでに腹をくくっているから、マイやヒナよりは落ち着いている。レイヤは、ユウキが説明すると言っているので、大丈夫だと考えていた。

 ユウキを先頭に施設に入っていく、裏口から入ろうかと思ったのだが、入り口に立っていた老紳士から表から堂々と帰ってこいと言われて、従った。

「母さん。ただいま」

「おかえり・・・。ユウキ。サトシ。レイヤ。マイ。ヒナ。・・・・。そう・・・・。そんな顔しない。貴方たちが望んだことでは無いのでしょ?」

「おかえり。後ろの二人は?お前たちの友達なのか?」

「あぁエリクとアリスだ。ドイツ人だけど、日本語は大丈夫だ」

 ユウキが、二人を紹介する。二人も、ユウキの紹介の後で、改めて挨拶をする。
 深夜の3時にする話ではないのは、皆がわかっている。寝ている子供も居るだろうから、声は抑えていた。

「エリク君とアリスちゃんだね。ユウキたちの友達なら歓迎だ」

「父さん。エリクもアリスも、俺たちと同じで、暫く・・・」

「そうか、好きなだけ居るといい」

 皆が安堵の表情をする。
 エリクとアリスを受け入れてくれるとは思っていたが、やはり”ダメ”だと言われる可能性もあった。

 二人は、ユウキたちと同世代だが、日本人ではないのは顔を見ればすぐに解る。”ワケ”ありだと簡単に想像が出来てしまう。

「サトシ。レイヤ。ヒナにマイも、顔をしっかりと見せて、エリク君もアリスちゃんも遠慮しないでいいのよ。何か食べる?お腹はへっていない?それとも、お風呂にする?すぐに準備するわよ」

 変わっていない母の反応に、マイとヒナは涙をこらえるのがやっとだった。エリクとアリスも、なぜだか嬉しくなってしまっていた。

「母さん。父さん。俺たちに何が有ったのか話す前に、俺たちが居なくなってからの話を教えて欲しい・・・。ダメか?」

「わかった。母さん。何か、簡単に抓める物と飲み物を用意してくれ、食堂でいいか?」

「あぁ」

 ユウキたちは、老紳士と一緒に食堂に移動した。


 ユウキたちは、食堂に入った。
 自分たちの席がまだ残されている状況が嬉しかった。

 マイとヒナが、弥生の席に遺品を置いた。皆の辛そうな表情を、老紳士()が更に辛そうな表情で見つめる。

「エリク君とアリスちゃんは、好き嫌いは大丈夫かい?」

 奥から、老婦人()の声がする。

「大丈夫です!」「私も、大丈夫」

「わかった。マイ。ヒナ!」

「はい!手伝う」「手伝う」「あっ私もできることは少ないけど手伝います」

 マイとヒナとアリスは、これから話が開始される弥生の話を一緒に聞く気分にはなれない。
 ユウキたちも、3人と一緒に話を始めるのには、戸惑いを感じていた。

 3人の姿が、奥の厨房に消えたのを見て、老紳士は背筋を伸ばした。

「サトシ。ユウキ。レイヤ。聞かせてくれるか?」

「はい。父さん。でも・・・」

「わかっている。ここで聞いた内容は、お前たちが良いと言わない限りは、墓場まで持っていく」

「ありがとうございます」

 3人は揃って頭を下げる。

「父さん。まずは、俺たちが、7年の間」「7年?5ヶ月ではないのか?」

「そうだね。弥生の話をする前に、何が有ったのか話をするよ」

「わかった」

 ユウキは、召喚された時点からの話を、10分にまとめた。もともと、考えていた内容だったので、スラスラと説明が出来た。

「ユウキ。それは、どこまで本当のことだ?」

 老紳士から当然出されるであろう質問が出た。ユウキたちも想定していた内容なので、質問の答えも決まっている。

「父さん。全部、本当の話だ」

「・・・。そうか、その魔法・・・。スキルは、地球でも使えるのか?」

「使える。全部は試していないけど、使えることは確認している」

「そうか・・・。何か、安全なスキルを見せてもらえないか?」

「そうだね。わかりやすいのは・・・。サトシ。聖剣を出して、炎と氷を纏え」

「わかった」

 立ち上がった、サトシはスキルを発動した。
 何も無い空間から、サトシの愛用している聖剣が姿を現す。この時点で、地球の物理法則を無視した存在だというのは理解できる。空中に浮いた状態になっている。サトシが手を虚空に差し出すと、聖剣が自分から移動してきて、サトシの手に収まる。
 聖剣を手に収めたサトシが、皆から少しだけ距離を開ける。

「炎の剣。氷の剣」

 スキル発動の声と同時に、聖剣が2つの相反する属性を纏う。

「おぉおぉ」

 老紳士も、男児なのかもしれない。
 サトシが聖剣を出した時点から、身を乗り出して嬉しそうな表情で見ていた。炎と氷をまとったときには、立ち上がっていた。

「貴方!」

「お前・・・」

「サトシ。仕舞いなさい」

「はい」

 サトシは、奥から出てきた老婦人の声に素直に従った。スキルを解いて、聖剣を虚空に返した。

「サトシ。大丈夫なの?」

「大丈夫」

「そう、それならいいのだけど、無理は辞めて頂戴」

「はい」

「ユウキ。今の話は、マイとヒナとアリスちゃんから聞いたわ」

「うん」

「3人には、クッキーを作ってもらっている。弥生のことを教えてもらえる?」

 老婦人の質問に、ユウキたちは固まってしまった。

「ふぅ・・・。母さん。世界中で、孤児が行方不明になっているとか聞いていない?」

 老婦人は、ユウキの質問に狼狽える。
 実際に、ユウキたちが居なくなってから、老夫婦は警察に捜索願を出した。夜に居なくなったことから、当初は子どもたちが抜け出したのではないかと疑われたのだが、全国で似たような事例が報告されてから、警察の態度が変わった。
 実際には、捜査をしたが”何”もわからなかったのだが、日本だけでも子供だけが20名以上が行方不明になった。そして、世界中でわかっているだけで、200名の子供が行方不明になった。
 最初の1ヶ月はマスコミも世界中で行方不明になる事例を報道したが、続報もなく下火になった。

「そうか、200名程度だと報道されていたのか・・・」

「それで?ユウキ?」

「母さん。あまり気分がいい話では無いけど・・・」

「構わない。知らないほうが、後悔する。それに、お前たちが持っている荷物の少しだけでも、私たちに背負わせておくれよ。弥生のことなら、全部・・・」

「母さん」「サトシ、ユウキ・・・。すごい人だな」

「母さん。俺たちを含めて、300名以上が異世界の一つの国に誘拐された」

「そう・・・」

「そこで、スキルを得た。俺たちは、サトシやマイや他の仲間たちが居て、道を間違えなかった」

 ユウキの言葉に、サトシやレイヤがうなずく。

「そう・・・。間違えた子も居たのね」

「違う!母さん!俺たちも、間違いかけた!でも、弥生が・・・!!」

「サトシ!」

 ユウキが立ち上がって、激高したサトシをなだめる。

「悪かったね。それで、ユウキ?」

「流れは省くけど、弥生は、同じ日本人という奴らを助けようとして、騙された」

「・・・」

「それで、殺された」

「そう・・・」

 老夫婦は、弥生の席に置かれた破かれた服を見る。
 それが、単純に殺された・・・。だけでは、ないことを物語っている。ユウキが言いにくそうにしているのを察した。サトシは、テーブルの上に置いた手を強く握っている。レイヤは、弥生の席を見つめて、何も言わない。
 ユウキはテーブルの上に置いた手を強く握っている。当時を思い出して、やり場のない怒りを、不甲斐なさを、全てを呪った現実を・・・。

「俺は、弥生を汚した奴らを許せなかった。だから、俺は、俺の力を使って、奴らを殺した。俺の意思で・・・」

 ユウキは、震える心を、抑え込むように、母に向って顔を上げて告げる。

「違う!母さん!俺が、俺が、弥生を犯した奴らを殺そうとした、でも・・・」

「サトシ。お前・・・。お前は、奴らを許そうとした。でも、俺は許せなかった。だから、俺が殺した。日本人というだけで、”俺たちと同じ”と言った奴らが許せなかった」

 老婦人は立ち上がって、ユウキの後ろに回って、抱きしめる。

「ありがとう。ユウキ。私たちの代わりをしてくれて・・・」

「え?」「??」

 強く握りしめて、血が滲み始めている手の上に老婦人の手が重なる。

「そうだな。母さんの言う通りだ。ユウキ。儂たちがその場に居れば、殺していただろう。辛い役目をやらせてしまったな。すまん」

 目の前に居る子どもたちに頭を下げる。
 老婦人は、流れ出る涙を止められない。自分たちの子供が、人を殺したことが悲しいのではない。そんな場面に、自分たちが駆け寄って助けてあげられなかったことが悲しいのだ。それを乗り越えた子どもたちが誇らしくも有り、寂しさを感じていた。

「父さん・・・。母さん」

 ユウキは流れ出る涙の理由がわからなかった。
 悲しかったわけではない。嬉しいわけではない。でも、頬を伝う感触で、自分が涙を流していると理解していた。

「弥生は?」

「向こうで、俺たちを受け入れてくれた国に眠らせた」

「そうか」

「一人じゃない。戦って死んだ者や、騙されて殺された者たちと一緒に眠ってもらっている」

「その子たちは?」

「今、仲間たちが故郷に届けに行っている」

「そう・・・。よかった」

 それから、老婦人は弥生の最後をユウキから聞き出した。
 話が終わったと思っていたユウキだが、”母”が”娘”の最後を知らないのは間違っていると言われて、全てを語った。

「そう・・・。ユウキたちが無事で良かった」

「母さん。でも、弥生が・・・」

「そうね。ねぇアナタ?」

「そうだな。弥生は、儂たちが預かろう。正式には・・・」

 老紳士が言葉を切る。

「ユウキ。弥生が眠っている場所には、私たちは行けないのかい?」

「え?」

 ユウキたちが想定していなかったが、親としては当然の質問だ。
 固まってしまったユウキたちに追い打ちを掛けるように、エリクに念話が届いた。

「すみません」

 エリクは、老夫婦に断りを入れてからユウキとサトシとレイヤを見る。

「ユウキ。他の者たちから、今と同じ話が来ている」

「え?」

「当然じゃな。お前たちが仲間と呼ぶような者たちの親だ。儂たちと同じ考えを持つのは当然だ」

 ニヤリと笑った老紳士の顔を、ユウキたちは頼もしくも、複雑な想いで見つめるだけしかできないでいた。

「エリク?」

「ユウキは、説明で忙しいだろうし、サトシは無理だろうし、レイヤはユウキのフォローに回っているだろうと、皆が俺に連絡してきた」

「それは、妥当な判断だが・・・。違う。同じというのは、眠っている場所に連れて行けということか?フィファーナだぞ?」

「異世界だと説明して、魔物が居るし、危険な状況になっている可能性も伝えたそうだが・・・」

「無駄じゃな。ユウキたちには悪いが、行って帰ってこられると聞いて、親が眠っている子供に会いに行かない選択肢を選ぶはずがない」

「そうね。ユウキ?どうなの?私たちを連れていけないの?」

「・・・。正直に話せば、わからない。猫や犬は大丈夫だった。”万が一”が、あるかもしれない。父さんと母さんが居なくなったら・・・」

「そうしたら、ユウキたちの誰かに責任を取ってもらえばいい」

 老紳士が笑いながら、言っているので冗談だと判断できるが、ユウキたちへの責任云々は別にして、危惧している問題がある。

「なぁユウキ。父さんや母さんを連れて行くのは問題にはならないよな?」

「あぁだが、野良猫や野良子犬を連れて行った時のことを思い出せ」

 ユウキは、”連れて行こう”と言い出しそうなサトシを見て問題点を指摘する。

「あっ・・・。魔物化の問題か?」

「あぁ魔物になるとは考えにくいが、スキルを得るくらいは考えられるだろう?」

「・・・」

「父さんや母さんなら、口止めしておけばいいだろうが・・・。スキルは、人を愚かにする」

 ユウキやサトシやレイヤは、何度もスキルが人を愚かにする場面を見てきた。だから、怖いのだ。自分たちが信頼している人たちがスキルに侵される場面を見るのが・・・。臆病になっていると言ってもいい。

「ユウキ!儂たちを実験台にすればいい。そのスキルというのが、儂たちが覚えたとして、使えなくする方法はないのか?取り上げるとか?」

「あっ!セシリアのスキル!」

 サトシが大きな声をあげたことで、厨房から女子3人が顔を出した。

「なに?セシリアがどうしたの?」

「丁度よかった。マイ。セシリアのスキルだけど、スキルを封印できるよな?」

「え?スキルの封印?あぁそうね。セシリアのスキルは、封印だけど、セシリアよりも熟練が低くないとダメだよ?レア度にも影響するみたいだけど・・・」

「なぁマイ。例えば、俺たちみたいな、オンリーワンのスキルをセシリアは封印できるのか?」

 ユウキが、サトシの言葉を引き継いでマイに質問をする。
 一緒に長い間、戦ってきたが、お互いのスキルに関しては、話をしない。ユウキが、セシリアのスキルを知らなくても当然な状況なのだ。

「私たちみたいに、熟練度が上がっているスキルはダメだけど、セシリアの熟練度よりも低ければできるみたい」

「解除もできるのだよな?」

「うん。セシリア以外には、解除は不可能だと思う」

「そうか、それなら・・・」

「ん?」

「あぁ父さんや母さんは大丈夫だとしても、他の人たちが大丈夫だとは限らないだろう?そのときに、転移した場所でセシリアに挨拶させて、スキルを封印すればいい」

「・・・。文句を言われない?」

「言われたら、『訓練すれば、使える可能性がある』とか言ってやればいい」

「訓練?」

「魔物との戦闘だな。それも、オンリーワンのスキルを解除するのだから、”魔物の王”の眷属クラスでなければダメだろう?」

「・・・。ユウキ」

 ユウキが手を打って立ち上がった。

「エリク。要請は、”受けるつもり”だけど、調整が必要で、少人数での移動になると伝えてくれ」

「わかった。スキルの件は伝えなくていいのか?」

「皆が集まった時でいいだろう?それに、スキルが付くのかわからないからな。つかなければ、説明する必要は無いだろう?」

「わかった」

「墓参りは、俺たちの計画がスタートしてからになるだろう」

「そうね。セシリアに確認する必要もあるし、”すぐ”というのは・・・」

「父さん。母さん。弥生の所には、少しだけ待って欲しい」

「わかった。ユウキたちの都合を優先してくれ、それでやるべき”こと”とは?」

 ユウキは、”しまった”という顔をする。
 老夫婦に説明したら、反対されるのがわかっている内容だ。

「ユウキたちは・・」

 サトシが言いかけたのを、ユウキが制する。

「サトシ。ありがとう。でも、俺が、父さんと母さんに説明する。俺たちの思いと考えを・・・」

 ユウキは、老夫婦に自分の考えている内容を説明した。
 老夫婦は、ユウキが話をしている内容を黙って聞いている。

「俺は、父さんと母さんに反対されても・・・」

「ユウキ!」

「父さん?」

「反対されるのがわかっている状態なら、ダメだ。必ず成功しろ。そのためなら、儂たちは協力する」

「え?」

「そうね。ユウキが、復讐しないでくれるのが一番だけど・・・。それは難しいのは、私たちでも解る」

 老婦人は、目を伏せがちに語るのは、ユウキの告白を聞いて、認めることは出来ないが、止めるのも無理だと判断した。

「ありがとう。必ずとは言えないけど、成功させる」

「わかった。それで、ユウキだけで実行するのか?」

「そのつもりだ。ヒナやレイヤにも”やる”ことが有る。お互いに協力はする」

「そうか、それならいい。ユウキ。お前たちの部屋は、そのままにしておくから、好きに使えばいい」

「・・・」

「わかっている。儂たちに迷惑がかかると思っているのだろう?」

「あぁ」

「ユウキは、わかったが・・・」

 老紳士は、ユウキ以外の者たちを見回す。

「父さん。サトシとマイは、異世界・・・。レナート王国に戻る。ヒナとレイヤは、日本でやることが有る。俺と同じだ。父さんと母さんなら、事情が解るだろう?」

 ユウキの言葉で、老夫婦はお互いの顔を見てからうなずいた。
 ユウキと少しだけ違うが、ヒナとレイヤにも復讐したい相手が居る。

「それで?」

「父さん。母さん。俺たちは、異世界に戻る。ここは、この施設は故郷だけど、俺たちが未来を見る場所じゃない」

「・・・」「そうだな。お前たちのスキルを狙ってバカどもが騒ぐのは間違い無いだろう」

「あぁだから、マイを付けて、サトシはさっさと異世界に帰す」

「・・・。サトシは、変わっていないのか?」

「父さん。母さん。聞いてくれよ」

 ユウキとレイヤのサトシのやらかしの暴露大会が始まった。

 アリスがウトウトしはじめたので、暴露大会はお開きとなった。

 ユウキたちの行動を縛ろうとはしないと言ってくれた。
 弥生の墓参りと、定期的な連絡を約束した。サトシとマイだけではなく、ユウキとレイヤとヒナも、定期的に地球に帰ってくるように言われた。それから、サトシとマイとセシリアの結婚式には、老夫婦も参加することがなし崩し的に決まった

 結局、ユウキたちは約束の10日を過ぎても施設に寝泊まりしていた。すでに、予定を5日ほど過ぎている。
 ユウキたちが住んでいた部屋だけではなく、空き部屋も多く、他の国に行っていた者たちが集まっても部屋の数が足りなくなることはなかった。

 この事実に、老夫婦も喜んだのだが、それ以上に施設に居た年少組が喜んだ。
 指先から火や水を出す生活魔法のスキルを使って喜ばせた。物が消えて別の場所から出てくるような手品のように見せるスキルを使った。これが、年少組に思っていた以上に喜ばれた。実際には、手品ではなくて本当の魔法なのだが、手品のように少しだけ胡散臭い感じでやると、本当に手品のように見える。
 サトシが使える聖剣の出し入れも、年少組には受けが良かった。それがサトシには嬉しかった。調子に乗って、聖剣を呑み込むように格納した時には、年少組がドン引きして、それからはサトシに手品を強請る子どもが現れなくなった。

 5日の時間が必要になったのは、ユウキたちの都合も有ったのだが、老夫婦の知り合いをたどって、週刊誌の記者につなげてもらった。
 その記者が言ってきた日付が、5日後の日付だったのだ。

「父さん。母さん。ありがとう。行ってくる」

「あぁ行って来い。困ったら来なさい」

「わかった。それじゃ!」

『お世話になりました』

 24名が揃って、老夫婦に頭を下げる。
 老夫婦は、一人ずつ名前を呼びながら抱きしめていく・・・。
 そして、抱きしめながら、”これで、自分の子供だと、迷ったら頼りなさい”と一人ひとりに声をかけていく・・・。

 俺は、週刊誌のしがない記者だ。政治や経済に関するゴシップを得意としていた。
 少し前に、話題になった集団失踪事件が発生した施設の院長から連絡をもらってから、俺の日常は変わった。

「今川さん?」

 俺の前に座っているガキ・・・。いや、新城裕貴(ユウキ)から発する覇気というのか、存在感が・・・。大物政治家や経済界のトップと会った時と同じ・・・。いや、それ以上に圧力を感じる。

「おっおぉ。ユウキでいいのだよな?」

「はい。新城は、捨てた名字ですし、記事では”ユウキ”でお願いします」

「わかった」

「それで?」

「大変だったぜ?」

「え?そんなに?」

「あぁ」

 院長からユウキたちを紹介された時には、反応に困った。
 いきなり、”異世界に召喚されていた”と言われて、反応に困る。実際に、俺も聞いた時には、”ふざけるな”と怒鳴りかけた。ユウキも、それがわかっていたのか、”証拠”を見せてきた。何もない空間から、”草”を取り出した、続いて”液体が入った瓶”を何本か取り出して、最後は銀のように見える塊を出した。
 そして目の前に座っていたはずのユウキが俺の後ろに回って、首筋にナイフを押し付けていた。目を離したのは、1秒もない。それなのに、ユウキは俺の後ろに回り込んだ。変な汗が吹き出したのを覚えている。

 その日は、それだけで終わった。ユウキから提供された物は、俺への報酬と言っていたが、怖くて受け取れなかった。本当に、異世界に行っていたのだとしたら、そう考えられる状況だった。院長と組んで、俺を詐欺に嵌めようとしているのではないかという疑惑も浮かんだが、詐欺なら”異世界”などと言い出さなければいい。

 院長には、不躾な取材をしてしまった慚愧の念もあり、騙されたつもりでユウキの話に乗ってみることにした。

 実際に、日本国内だけではなく、世界の先進国で子供が集団で行方不明になっていた。
 判明している数は、200名を越えていた。ユウキからの情報では、300名を越えていると言われた。

 アメリカとドイツの言われた施設に連絡をした。

「どうでした?」

「お前から提示された施設の子供だと解った」

 施設にメールで問い合わせをした。ドイツ語に()自信がなかったが、片言の英語でも大丈夫だった。ユウキが言うように、施設から消えた子供で、先日になって戻ってきた。今は、日本に居るという連絡を貰っている。すべての施設で同じ返事を貰った。
 そして、施設で撮影した写真をメールで送ってくれた。

 目の前で写真の子どもたちが座っていたら、納得するしか無い。子どもたちが話している言葉が不思議だ。ユウキは、日本語を話している。紹介された者たちも母国語を話しているはずなのに、意思の疎通が出来ている。俺との意思の疎通は、ユウキを介しているが、どうやら”日本語”は理解できるようだ。

「それなら、少しは信じてくれますか?」

 ユウキの話に、”BET”することに決めた。

「あぁ”信じる”ことにした」

「”ことにした”ですか、いい言い方ですね」

「そうだろう?大人は狡い生き物だからな」

「大丈夫です。向こうで、もっと”えげつない”人たちと渡り合ってきました。それじゃ、俺たちのことを記事にしてくれるのですよね?」

「あぁ編集長も口説き落とした。スクープだからな」

 ユウキたち、俺を見て納得している。何を見ているのかは、わからないが、俺を信じてくれるようだ。

「でもいいのか?」

 俺は、ユウキに懸念していることを最終確認の意味で尋ねることにした。

「何が?」

「このネタなら、大手の新聞社でも、それこそ、TVが飛びつくぞ?自分で言うのもおかしいが、俺たちの雑誌は”ゴシップ”記事がメインだぞ?」

「構いませんよ。ネットの記事でもいいと思っていますからね」

「そうか・・・。編集長が、謝礼金詐欺じゃないかと言っていたが・・・」

「ハハハ。大丈夫です。お金が欲しければ、有る所から貰いますよ」

「え?」

「最初に、今川さんと会った時に見せた物を覚えていますか?」

「あぁ変わった草と液体と銀だろう?」

「えぇそうです。最初の草は、ヒール草で、次が各種ポーションで、最後がミスリルです」

「え?」

「そえで、ヒール草・・・。よりも、ポーションの方がわかりやすいですよね。デモンストレーションの練習にもなるか・・・」

 ユウキがなにかブツブツ言い出す。
 時々、自分の考えをまとめる為なのか、ブツブツと語りだす。ヒナと呼ばれていた女の子から聞いたが、ユウキがこうなったら何を言っても無駄だから、”放置していてくれ”と言われた。

「今川さん。痛いのは我慢出来ますか?」

「痛い・・・。の、強さによるな」

「そりゃぁそうですね。ナイフで、指を少しだけ切ってください」

「え?・・・。わかった」

 ユウキは、俺がナイフを持っているのを知っているのだ?
 持っているのを確信している目だった。

「撮影していいか?」

「大丈夫ですよ。誰かに撮らせますか?」

「それでもいいが・・・」

 スマホを、固定する道具を使って、机の上に置いた。
 動画の撮影状態にしてから、ナイフで指を傷つける。強くやらなければ、痛さは少ない。血が滲み出てくる状態になった。

「これでいいか?」

「十分です。これを振り掛けてください」

 ユウキがこの前、俺に見せてくれた小瓶を差し出す。
 瓶の形状や材質は、お世辞にもいいものではない。昭和初期や日本の近郊にある独裁国家で使われている瓶のような材質だ。

 蓋を外して、液体を切った指に振りかける。

「え?」

 傷口が少しだけ光った。
 短い間だが、確かに光った。そして、光が消えた。

 指に有った傷口は綺麗に無くなっている。

「ユウキ?」

「ヒールポーションの低級です」

「よく、RPGとかである、ヒールの魔法か?」

「同じだと思ってください。低級は、傷を癒やしますが、呪いや属性攻撃でついた傷は治せません」

「・・・」

「地球に、呪いの攻撃や属性攻撃があるとは思えませんが・・・。あっでも、低級では古傷・・・。そうですね。血が止まってしまったり、皮膚がなおってしまったり、骨折には効きません。骨折を治すのは、中級です」

「そうなると、上級があるのか?」

「ありますよ?欠損は治りませんが、繋げることは可能です」

「それは・・・」

 ユウキは、とんでもないことを言い出したと認識しているのか?
 医療がひっくり返るぞ?

「あぁでも、数に限りがあります。俺たちが持っているだけです」

「そうか・・・。でも、成分を調べて・・・」

「そうですね。その可能性はあるとは思いますが、無駄だと思いますよ?」

「ん?」

「調べていただければ解ると思いますが、ただの水と出ると思いますよ?」

「は?そんな・・・」

 ユウキは説明してくれたが、納得できるものではなかった。
 初級のポーションを預かって、研究所に持ち込むことにした。”口が堅い”ことが自慢の研究所だ。

「いいのか?」

「いいですよ。今川さんが、持ち込んだ研究所が漏らせば、その研究所が困りますよ?」

 ユウキの言う通りだ。
 ポーションだけでも大騒ぎになるのはわかりきった未来だ。それが、外に漏れたら、俺が持ち込んだと解ったら、俺がマスコミに追われる立場になる。研究所にも、マスコミが殺到するだろう。日本だけではなく、世界中の研究施設が集まるような大発見になる。情報が漏れた時点で、ユウキたちの目的が達成できる。
 どちらにしても、問題はない。

「わかった。ミスリルも預かっていいのか?」

「いいですよ」

 ユウキが、どこからかミスリルのインゴットを取り出す。この前のような塊ではなく、銀の延べ棒のようになっている。

「あっ銀と同じ価値程度はあると思います。研究所が購入したいと言い出したら、”銀と同じ値段で売ります”と伝えてください」

「わかった。結果が出たら、連絡する」

「はい。お待ちしています」

 結果は、ユウキが言っていた通りだった。研究所の連中もムキになって調べたが、”水”以外には表現出来なかった。水の構成や不純物も調べたようだが、地球に存在する物だった。しかし、傷が治る。折れた骨が治る。全く同じ水を用意して、傷口にふりかけても、傷が治る現象は発生しなかった。容器を調べたが、出来が悪い瓶としか言いようがなかった。

 ポーションのことやユウキたちが見せてくれた”スキル(魔法)”をごまかして、失踪事件の真相という記事を掲載した。
 子供が300名以上だ。真相として、『異世界に拉致された』と見出しを付けた。

 そして、生き残った29名が日本に集結していると・・・。

 俺は、ユウキたちに張り付くことが決定した。編集部と上からの指示で、ユウキたちをホテルに隔離することも決定した。
 ユウキたちが望んだこともあるが、情報ソースとしての29名を安全に隔離するためだ。

 独占スクープだが、まだ世間は記事の内容を、”とんでも記事”だと思っている。