「ユウキ?マイは?」
「・・・。あぁそうか、サトシは、知らないのだったな。すぐに戻ってくるだろうから、マイに聞けよ。俺からは、それしか言えない」
「・・・。わかった・・・」
サトシは、口では解ったと言っているが、納得していないのは表情を見れば解る。
「はぁ・・・。あとで、マイに聞けよ」
「あぁ」
「マイが、俺たちとは違うのは理解しているよな?」
「あぁ」
サトシもユウキも片親だったが、サトシは親が病死して施設に入った。ユウキは、親が事故死して施設に入った。
マイは、両親が揃って事件に巻き込まれる形で亡くなった。当時、マイが住んでいた家の近くにある一家に預けられることが多かった。その一家も事件に巻き込まれて、一人を残して亡くなってしまっている。一緒に遊んだことがある、年上の女の子が行方不明のままだったが、遺体で見つかったのが、浜石岳の山頂にある仏舎利塔の近くなのだ。
「そうか・・・」
「サトシ!」
「俺も、挨拶を・・・。ダメか?」
「時期が来れば、マイが誘ってくれるだろう。それまで待て!まだ、マイの中で消化出来ていないのだろう。いいか、サトシ。素直なのはお前の美点だけど、相手にそれをぶつけるな」
「・・・。わかった」
ユウキは、サトシにマイの話をするのは初めてだが、サトシの性格に対する注意をするのは初めてではない。
サトシは、口では”わかった”と言っているが、どこか釈然としていない。特に、今回のように”悪いことではない”場合にもユウキに止められる。ユウキとサトシは、ほぼ同時に施設に引き取られた。サトシは、親類も縁者も居ないと判断された。ユウキは、縁者は居るらしいのだが、養育を拒否された状況だ。詳しい話は、二人は知らない。しかし、サトシもユウキも、これで良かったと思っている。ユウキは、母親を知っている。サトシは、父親を知っている。
「ユウキ!サトシ!」
「ディド。どうした?」
「フェリアのスキルの発動だけど、見てもらっていいか?」
「わかった」
サトシは、自分も呼ばれているが、ユウキが先に答えてしまったので、後からついていく形になった。
ディドとフェリアは、後方支援が得意な者だ。
「どうした?」
「あっユウキ!スキルの発動は大丈夫だけど、効果が異常なの!」
「異常?」
「ユウキ。私のスキルは覚えている?」
「あぁ魔物や動物や昆虫を一時的に使役状態にするのだよな?」
「うん。テイマーと違って、使役状態を維持出来ないけど、数は無制限にできる」
「あぁ使役状態の維持に魔力を使うのだよな?それで?何が、異常だと思ったのだ?」
「見てもらったほうが早いよ」
フェリアの足元には、数百匹のアリが固まっていた。
「あっフェリアは、全部のアリを使役状態にしたのか?確かにすごいな」
「違うの・・・。ユウキ。私は、一匹を使役状態にしただけなの・・・」
「え?ディド。どういうことだ?」
ディドは、鑑定や探索系のスキルを複数所持している。
「俺が見ても、たしかに全部が使役状態になっている。フェリアと魔力の繋がりがある」
ユウキは、ディドから視線をフェリアに戻した。
「フェリア。魔力はどうだ?1匹分か?」
「それがよくわからないの・・・。最初に使役状態にしたときには、”アリ”を使役したことは無いけど、フィファーナの昆虫よりは多くの魔力が必要だったけど、使役状態になってからは・・・」
「減っていないのか?」
「そう、回復の方が早いみたいで・・・。でも、たしかに、最初は一気に持っていかれたよ?」
「フェリア。全部が使役状態なことは、間違いではないのか?何か、指示を出してみてくれ」
「わかった」
フェリアが、ユウキに背中を見せる状態で、しゃがんだ。必要がない行為なのだが、フェリアは”使役状態”にある者たちを見ながら実行したほうが、指示が伝わりやすいと考えている。座って、固まっている”アリ”に隊列を作って、10メートルほど離れろと指示を出す。言葉に出す必要は無いのだが、ユウキや周りで見ている仲間たちに、解るようにフェリアは指示を声に出した。
”アリ”たちは、フェリアの指示に従って、団子状態から10列(フェリアのイメージ)の隊列になって10メートル(フェリア的な距離)の場所で停まった。
「すごいな。ディド!」
「魔力は、1%未満だが減ってから、すぐに回復した」
「魔力が回復するのは、他のスキルでも同じことが発生しているよな?」
状況を見ていた他の者も、ユウキの話にうなずいている。スキルを使うときに、威力が増すのは、確認されている。消費魔力は、スキルで違うことも解っている。魔力の回復も、地球のほうが早いのも確認された事象だ。
「あぁユウキの報告通りだ。皆の感覚だけで、検証は出来ていないが、間違いはないだろう」
「そうか・・・。そうなると、使役状態なのは、状況を見れば納得できる。問題は、数だな」
「フェリア。個別、指示、出せる?」
ディドの後ろで話を聞いていた、テレーザが割り込んできた。皆の視線が集中すると、ディドの後ろにまた隠れてしまった。
「そうか!テレーザ。ありがとう!」
ユウキは、テレーザが気になっている内容が、この現象の解明に役立つと考えた。
「フェリア。”アリ”に個別で、指示を出せるか?」
「できそうだよ?」
「使役は、意思も関係するよな?」
「うん。無理な指示には従わないよ?」
「それなら、”アリ”に、最初に使役状態になった”個体”だけに指示を出せるか?」
「うーん。やってみる」
今度は、声に出さないで、指示を出す。
しかし、何度実行しても、”個体”への指示は成功しなかった。
「ユウキ。ダメみたい」
「そうか・・・。そうなると、”アリ”だけに適用される状況なのかわからないけど、全体で使役しているのだろう」
検証は、ここまでにした。
フィファーナの昆虫と地球の昆虫の違いだと考えることにした。
スキルの検証を続けようか、ユウキたちが悩んでいると、仏舎利塔に行っていた、マイが戻ってきた。
「マイ!」
気がついて、サトシがマイに駆け寄る。
「ゴメン。みんな」
マイは、皆に頭を下げるが、皆は気にするなとマイの行動を容認する。皆がそれぞれ事情を抱えている。
「それで、スキルの検証は?」
「一通りは、終わったと思う。あとは、まとめる作業だけど、それは、帰ってからでいいだろう?」
「そうね。それに、追加で検証が必要になったら、ユウキに連れてきてもらえば、いいよね?」
「そうだな。将軍の話や、状況的に俺はフィファーナと地球を往復する必要がありそうだからな」
「うん。うん。サトシの世話もあるよ?」
「それは、マイとセシリアに任せる」
マイとユウキのやり取りは、いつもと変わらない。
二人の話を聞いて、笑い声が聞こえる。
「さて、俺の魔力も溜まったし、帰るか?」
ユウキは、周りを見回して確認する。
”否”と考えている者は一人も居ない。
ユウキはスキルを発動する。
こちらで流れた時間と、フィファーナで流れた時間を同一にする。発動時のイメージに追加したのだが、うまく作用するか不明だったが、スキルはしっかりと発動した。
魔法陣が浮かび上がった。帰還組が、地球を懐かしむよりも、フィファーナに帰りたいと思っているのか、魔法陣に集まる。
「いくぞ!」
ユウキの掛け声に反応する。
帰還組は、地球に2時間10分ほど滞在して、フィファーナに戻った。
姿は、ユウキと同じように、7年前の姿になっていた。
「おかえりなさい。ユウキ様。皆さま」
魔法陣の光が消えて、周りがわかったユウキたちの前には、笑顔のセシリアが居た。セシリアは、ユウキたちが”戻ってくる”のは疑っていなかった。だが、やはり”心配”になってしまう気持ちを抑えられなかった。2時間という時間が近づいてから、庭が見える場所で待機していた。ユウキたちが帰ってきて、最初に出迎えようと思っていたからだ。
セシリアの声と笑顔を見て、ユウキたちも”フィファーナ”が帰るべき場所だと認識した。