「いーえ」

 椅子に座ると彼は満足気に笑いお弁当の包みを解き始めた。作り物みたいに綺麗な指が弁当の蓋を捉え、ぱかりと開く。

「わ、丁寧に詰めてあるね。炊き込みご飯……色も綺麗……。野菜にピック刺してくれたんだ」

「うん」

 息を洩らす日野くんの表情に、何とも言えない緊張を感じた。心臓の奥がぐるぐるするような……さっき一緒にここに来るまでは普通だったのに、調理実習の日、あのマフィンの時みたいに胸が苦しい。
 心臓に僅かな痛みを感じつつ私がお弁当の蓋を開けると、彼は静かに手を合わせた。

「じゃあ、いただきます」