彼女は芽依菜ちゃんの席の最前列の子だ。華奢でぱっちり二重の可愛い子で「佐々木ちゃん」と呼ばれいつもクラスの女の子の視線を集めている。休み時間には自分のペンケースの見せ合いっこをしていて、お洒落な子だなあという印象だ。

 けれど私が一方的に知っているだけで、佐々木さんとは話をしたことが全くない。班も違うし何の話だろう。

「あの、良ければなんだけど、マフィン、一つ分けてくれないかな?」

 気まずそうに佐々木さんはさらさらの黒髪を垂らし、私に頭を下げた。