確か学校が舞台で彼は先輩に恋する後輩の役と聞いた。初のキスシーンがあるらしい。嫉妬するとも美弥ちゃんは言っていた。
テレビのうっすらとした知識しかないけど、台本とかを憶えなきゃいけないだろうし、きっとそういうので名前を覚えるのも早いんだろうな。
「うん。日野くん記憶力がいいんだね」
「そんなことないよ、俺忘れっぽいし、人の名前覚えるの結構苦手で」
彼は謙遜しているけど、結構目立っている芽依菜ちゃんと違って私の名前を憶えているし記憶力はいいほうだと思う。
でもそう言っても、また彼は謙遜するだろう。職員室まではまだ距離がある。変に気不味くなりたくない。何か話題がないか考えて、ドラマの話をすればいいと思い直した。
「ドラマ、秋から放送するって聞いたよ、すごいね」
「えっ……五十嵐さん、興味があるの?」
「あ、えーっと、友達が日野くんのこと応援しててね、主演ってすごいね」
日野くんは私の言葉に「そっか」と視線を落とした。さっき、私がドラマと言ったときは少し圧らしきものを感じたけど、どことなく波が引いていくような気がする。