「うん。大変そうだし、私で良ければ」
「ありがとう、五十嵐さん。じゃあ職員室まで手伝ってもらっていいかな」

 頷きながら日野くんからプリントを受け取り、職員室へ向かって歩き出す。彼は「五十嵐さんが手伝ってくれて助かったよ」と私の隣を歩く。漠然とした違和感を覚えてその正体に気付いた。

 どうして、彼は私の名前を知っているんだろう。

 教室で自己紹介は行われなかった。中学の頃は新しいクラスになるたびに黒板の前に立ったりして、皆の前で名前や趣味を話した。高校でそういうのはなくて、私はクラスの中では有名人の日野くん、友達の芽依菜ちゃん、彼女の幼馴染しか知らないくらいだ。