なんとなく不思議な気持ちだ。私は日野くんと話をしたことがない。彼は気取ることも線を引くこともなく、誰とでも気さくに話す。
ただ周囲にはいつも女子が集っていてその誰もがお洒落で可愛い。他のクラスの男子は彼を取り巻く状況について、大奥かよ、と古文で取り上げられた言葉になぞらえていた。声色には妬みも混じっていて、大変だなと思ったことは記憶に新しい。
「俺、ぼーっとしてて、ごめん……!」
「ううん、気にしないで」
日野くんを見る生徒は三種類に分けられるだろう。お近づきになりたい人、羨ましがる人、そして私のように関わろうと思わない人、だ。