商店街の人たちは桜に、「こんなところまで飛んでくるなんて」と呆れながらも、どこか見惚れるようにしている。そんな人々を通り過ぎていくと目指していた八百屋さんに辿り着いた。通りに沿うようにカラフルな野菜たちが丸い網籠に乗せられていて、瑞々しく鎮座している。

 春だ。春がある。

 春は出会い、別れの季節と言うけれど、私にとってはアスパラ、かぶ、たけのこ、しらす、キャベツの季節だ。

 特に春キャベツは、いつもの季節より甘さも瑞々しさも格段に違う。千切りにしたものを塩で揉みこんだだけでも美味しいし、ごま油を加えて風味を変えたり、ラー油をかけて辛みのアクセントをつけたり、他の季節でも美味しい味付けが春キャベツというだけで格段に美味しくなる。

 本当に、いい季節だと思う。大好き。

 というわけで、私、五十嵐瑞香《いがらしみずか》の春は、出会いや別れより旬の食べ物。典型的な花より団子派。さらには団子の中では草の香りがたっぷりとするよもぎと、とろっとした蜜がかけられたみたらし団子、どっちも美味しい派の高校一年生だ。