「今日見れて良かったな……」

 切なげな声色に胸が締め付けられた。最近の私は本当に変だ。日野くんがご飯を食べていない姿でも心臓がおかしくなる。重病だ。そろそろ本当に一人で帰らないと。

「送り迎えはここでいいよ。悪いし」

「それは無理。五十嵐さんが危ない目に遭ったら絶対に嫌だから、安全なところまで送るよ」

 違う。勘違いするな。日野くんは安全を考えてるだけだ。他意はない。……他意ってなに? 私は、何を勘違いするなと思っているんだろう……? 疑問を感じていると、彼は喉の奥で笑った。

「まぁ、俺の傍っていうのが、一番危ないかもしれないけどね」

「え?」

「実は刃物持ってたり?人間なんて裏で何考えてるか分かんないもんだよ? 悪い人間はどこにでもいるからねえ」

 日野くんの笑顔はこれまで何度も見た。でも、月明かりに照らされた今の笑い方は確実に何か、今までと違う気がする。彼はそのまま私の髪に触れた。撫でるよりなぞって掬い上げる触れ方にどうしていいか分からなくなる。

「五十嵐さんの知らないところで、物凄く悪いことをしてる人は、案外近くにいるものだよ」
「え……?」
「ほら、品行方正でやってきたバスケ部だって今年出場停止になったんだって。どんなに外側で取り繕っててもさ、信用したらそこで――」