春の頃は何とも思っていなかったのに、この気持ちは何だろう。苦しい。痛い。彼からミネストローネへと視線を移し口に運ぶ。スープが喉を伝ってじんわりと温かさが通っていって、心を落ち着けてからもう一度彼へ視線を戻すと、同じようにミネストローネを飲む姿があった。
「五十嵐さんがミネストローネ飲んでたから、真似しちゃった」
やめてほしい。上目遣いでこちらを見るのも。色々、全部。スプーンをぎゅっと握りしめていると、日野くんは私のスプーンを持つ手にそっと触れた。
「俺さ、冗談抜きで最近、五十嵐さん以外の人間が関わった食事するの辛いんだよね」
「それって、何かまた嫌なことが……?」
「ううん。何も起きてないけど、ケータリングの食事すらしんどい」
「ケータリング……」
それって確か……お仕事で出てる食事だっけ? お店の人が来てくれるとか聞いたような……。仕事のときに食べる食事が辛いのは、それだけ日野くんが業者に盗撮されたりしたショックが拭えていないということだ。
どんどん不安を感じていく私とは裏腹に、彼は目を輝かせて笑った。
「五十嵐さん、すごいね。俺のこと簡単に殺せる……完全犯罪だよっ」
「え」