「たっ、体育の時間、たまたま男子たちが話してるの聞いちゃって、日野くん、人が近付くと避けたりするから、だから、近付いたら嫌われてしまうと思って、日野くんが嫌いというわけでは決してなくて。その、お弁当渡す時とか触ったかもしれなくて、どうしようって」

「え……? 今俺に嫌われるかもって思って避けたの?」

 半ばパニックになりながら話すと、日野くんは泣きそうに、それでいてあやす様に問いかけてきた。恐る恐る頷くと彼はどこか安堵した顔で私の腕を離した。

「五十嵐さんはそんなこと、気にしなくていいのに。どうせくだらない嫉妬だろうから」

 ……嫉妬? なら、男子たちは嫉妬をして、日野くんが冷たいとか、そういう話をしていたということ?

「よくあるんだよね。その女の子と話しすらしたことないのに彼女奪ったとか一方的に言われるの。それで無視してると性格悪いとか言われてさ。変な噂流されたり」

「じゃ、じゃあ日野くん、触られるの嫌じゃない……?」

「うん。五十嵐さんは何にも気にしないでいいんだよ。ぶつかってきてもいいし、俺で良ければ好きなだけ触って、腹がたったらサンドバックにでもしてもいいし。結構丈夫だし五十嵐さんの腹パンなら何十発でも受けれるんじゃない?」

 日野くんは、先ほど緊迫していたのが錯覚だったかのように柔らかな雰囲気を纏っている。少し子供っぽい口調に強張っていた身体の力が抜けてきた。

「なにそれ、腹パンなんてしないよ……!」