「五十嵐さんならいいよ。好きに使って。俺はどうせ鍋くらいしか使わないし」
一緒に同じところを覗き込んでいたからか、日野くんがこちらに顔を向けたことで顔が近づいてしまった。近付いたらいけないのに。慌てて距離を取ると、彼は距離を詰めてきた。
「何で避けるの?」
不機嫌そうな、不満げな日野くんの声。どう答えていいか分からず俯いていると、彼が私の腕を掴んできた。
「俺のこときらい?」
巣食うような瞳がどんどん近づいてきて、咄嗟に離れようとするけれど腕を掴まれていて離れられない。
それどころか彼の瞳はどんどん大きく見開かれていて、なんとなく本能的に恐怖を感じた。
「い、いや、ち、違くて、日野くん人と距離近いの嫌だって聞いて」
「誰から?」
「と、隣のクラスの男子から」
「何で? 知り合い? 友達? 五十嵐さん隣のクラスの男子と絡みあったっけ? どういうこと? 何で? 誰? 親戚ってここら辺の高校にいないよね?」
無表情で矢継ぎ早に質問をしてくる日野くん。まるで尋問みたいだ。私は慌てて体育の時のことを話した。