「大丈夫。今作るからね」

 うん。きっとお腹が空いていた時に話をしたのだろう。そう考えるとちょっと恥ずかしい。私は気を取り直して鞄からエプロンを取り出した。

 キッチンに立ち、流しで手を洗い終え顔を上げると日野くんと目が合う。彼はカウンターを挟んだ向かい側でテーブルに肘を預けながらじっとこちらを見ていた。

「五十嵐さんのこと手伝っていい? 邪魔になる?」

「いやいや手伝わせるわけにはいかないよ。日野くん今日の夜お仕事でしょ? それに私お金とか貰っちゃってるんだし」

「じゃあ、見てていい? 五十嵐さんのこと」

「え」

「作ってるところ見たい。ここら辺なら気が散らない?」

 そう言って日野くんはすぐそばのダイニングチェアに座った。

「お、面白いものじゃないだろうけど、それで良ければ……」

「ありがとう。すごく嬉しい」

 子供みたいに笑う日野くんを見てまた心臓が強く跳ねた。さっと彼から目を逸らし、気を取り直して主食の準備に取り掛かる。