四時間目で下校ということもあって、周囲の住宅街からは美味しそうなお昼ご飯の匂いが漂っている。

 コンビニでお昼ご飯を買ったらしいおばあさんやおじいさんともすれ違うけど、通学路とは一本遠い路地だから生徒の姿はない。

 日野くんは平然と歩いているけど、私は緊張でどう歩いたらいいか分からない気持ちだ。

 近づかないように、触らないように、嫌な思いをさせないように。それに男子の家に行くのなんて初めてだ。それも一人で。ハードルが高い。

 当然何もないのは分かってるけど緊張はする。それに彼のキッチンで料理を作るわけだから迂闊に汚せない。

「昨日は突然ごめんね? 家に来てなんて送っちゃって」

 不意に日野くんがこちらに振り返り顔が近づいた。焦って後ずさると彼は「驚かないでよ」と少し傷ついた顔をしてから話を続けた。

「実は前から思ってたんだ。五十嵐さんがうちに作りに来て、そのままうちでごはん食べて欲しいって。そうしたら、調理器具とか食器の洗い物も俺が出来るし、一緒に食べられるのになーって」