「そうか? あいつすっげー冷てえじゃん。女子にも」

「は? 女子にも? まじで? あの日野が?」

 隣の男子たちの話を聞いて、頭に疑問が浮かぶ。

 日野くんが、冷たい?

「物の貸し借りとか、すっげーさりげなくだけど断るし、誰かが触ろうとしたり近付くと微妙に避けてんだよ。潔癖っつうか。あいつが誰かに物貸したりしてんの見たことないだろ」

「あー、そうかも」

「初めは男相手だけでなんだこいつって思ってたけどさ、普通に女子にもそうだから俺逆に好感高いわ。全方位バリケード張ってるっつうか」

「まじか」

「なんかトラウマとかあんじゃねえの? すげえキャアキャア言われてるし。アイドルの握手会でやべえ奴毎年出てくんじゃん。舐めた手で行くみたいな」

 男子たちはタオルで汗を拭きながら去っていく。

 ……日野くんが、触られると嫌がる?

 そんなこと聞いたことない。だけど日野くんのことだ。嫌でも気を遣って黙っていることは想像に容易いし、あんな酷い目にあったのだ。人に近づかれることを嫌がってもおかしくない。