彼女は八百屋のおじさんを強制的に店の奥へ押し込んでいく。そして顔をぱたぱた仰ぎながらこっちへ戻ってきた。

「さっきのお父さんの言ったこと、本当気にしないで! 忘れて! 全然そんなんじゃないから」

「うん。分かったよ」

「あ、そ、そういえばねえ! 商店街の曲! 暮れ盆の時期にスピーカー修理出して新しくするから、曲が変わるらしいよ。一週間は寂しくなるけど、ニューソングで旋風を巻き起こす! なんて自治会長が言ってたから、変な曲になりそうなんだけど」

 美耶ちゃんは話を変えるようにして商店街で流れる曲について話を始めた。でも、話の半分も頭の中に入ってこなくて、つい返事がおざなりになってしまう。

「瑞香ちゃん、どうしたの?」

「ううん、何でもないよ」

 ずっと黙ったままの私を見て、美耶ちゃんが不安そうにしていた。私は慌てて首を横に振り、笑みを浮かべる。

 日野くんに、彼女。いないとは思うけど、二人分の食器を買っているところから見ても好きな人はいるのかもしれない。

 ……日野くんに、好きな人。