「先生の絵、初めて見る……」

「そうかぁ? 俺結構お前らに見せてると思うんだけどなぁ。まぁ、真木は授業中寝てることも多いからな。ははは! どうだ、キラキラして見えるだろう? 絵が上手いとなぁ、こうして絵がキラキラするんだ」

 パネルにはすごく細密な鉛筆画が描かれていた。題材は、現代版モナリザ……だろうか? 50センチほどの正方形のパネルの中央には、清楚な雰囲気の女性が描かれている。

 やや長めの黒髪で、鉛筆で描いているはずなのに実物を見ているように艶めいて、瞳も、まるで生きているみたいだ。もう十分これで完成に思えるけど、背景の部分はうっすらと色が塗っている。そこには綺麗な花々や、楽しそうな人々が描かれていて、楽しそうで明るい、パステルカラーのアクリル画だ。

 でも、朝日を受けて絵自体が輝いている。どうやって描いたのか不思議だ。

「上手い人の絵は、輝きも描けるんですね……」

 私の言葉に、だいちゃん先生が「あっははは!」と吹き出した。戸惑えば「いや、いくら絵が上手くても物理的にキラキラさせて見せるなんて無理だからな。いやぁ、園村は純粋だなぁ」と目に涙すら浮かべる。やがて先生は咳払いをして、パネルのキラキラ部分を指差した。

「メディウムっていう、絵の具の発色を良くしたり、艶を出したりする液があるんだ。それをノリ代わりにして、水晶末ってやつをふりかけたんだ」

「水晶末?」

「鉱石砕いて、粉末にしたやつっていうのが一番わかり易い例えになるのかなぁ? 日本画の画材なんだよ。お前ら修学旅行とか、旅番組の旅館とかで、屏風とか掛け軸に絵が描いてあったりしただろ。ああいう絵だ」

 思えば小学生の頃、旅館に泊まった時、掛け軸を見た覚えがある。それも先生の絵みたいにキラキラ光っていたような……。でも、もう何年も前のことだから記憶も曖昧だ。正直、小学校の頃どこへ行ったのかも、今ぱっと出てこない。

「まぁ、日本画に興味ある高校生は珍しいし、知らなくて当然だ。俺も高校のときは絵なんて描かなかったからな」

「え、そうなんすか? てっきり小さい頃からだとばっかり……」

 沖田くんが意外そうに目を丸くした。私も、先生が高校生の時に絵を描かなかったことに、びっくりした。今まで会った絵の上手い子は、みんな小さい頃から絵が好きで……とか、幼稚園から描いていたという子ばっかりだった。

 たった一人の例外は、真木くん。

 彼は引っ越してすぐの頃、一緒に絵を描いたりしていて、「大人に頼まれる以外で絵を描くのは初めて」と言いながらも、ものすごく細密な紫陽花を描いていた。そして、絵が好きなのか問いかければ「わからない」なんて言ったりした。他にも絵のうまい子達はいたけど、皆、小さい頃から練習してきたと言っていた。